コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第34回
2002年10月8日更新
最近は映画館に通う回数がめっきり減ってしまった。学生時代は映画を3本はしごすることだって珍しくなかったのに、ここ数年は1日に1本どころか、1週間に1本観れば多いほうだ。そのほとんども仕事関連のもので、自発的に観る映画なんてごく一部しかない。200本以上観るなんていうライターの人に会ったりすると、不勉強が恥ずかしくて、顔を伏せてしまうぐらいだ。
その一方で、うちのDVDコレクションは着実に増え続けている。ぼくにはこれといって収集癖はないし、もちろん潤沢な資金があるわけでもない。それでも、毎月、数枚ずつ増えているのは、DVDでの映画体験に完璧にはまってしまったからだ。
もともと、同じ映画を繰り返し観るのが好きだった。子供のころは、それこそすべてのセリフを暗記するまで観た。いまでも気に入った映画は断続的に何度でも見直す。そのたびに発見があって勉強になるのだ。おまけに、高画質で高音質、しかもCD並の値段とくれば、買わない理由を見つけるほうが難しい。
ぼくにとって、DVDの一番の魅力はAudio Commentaryという、音声解説だ。副音声で監督や出演者の解説が聞けるというもので、日本で発売されているDVD にはついているのかどうかわからないのだけれど(英語で収録されているので、字幕か吹き替えが必要になる)、監督自らが映画の解説をするというのは、ビデオでは考えられなかったことだ。それぞれのシーンでのエピソードや、出演者の様子、撮影意図などを聴いているだけで、映画に対する理解がいっそう深まる。
また、解説に監督の個性が出ているのも面白い。たとえば、ソダーバーグ監督は、それぞれのショットでのF値など、撮影に関する詳しい情報まで几帳面に語り、ポール・トーマス・アンダーソン監督は、スタジオの重役を名指しして「あいつはこのシーンをカットしろなんて言いやがったんだぜ」などと罵る。監督のこういう一面は、普通のインタビューではなかなか観られないものだ。
最近のDVDのなかで最も面白かったのは、「ザ・エージェント」のスペシャル・エディションだ。キャメロン・クロウ監督は「あの頃ペニーレインと」のディレクターズ・カット版や「セイ・エニシング」のスペシャル・エディションなど、DVD化に積極的に参加しているが、この「ザ・エージェント」では、なんと音声解説の収録映像まで公開している。音声解説初チャレンジというトム・クルーズをはじめ、この作品でブレイクしたレニー・ゼルウィガー、キューバ・グディング・ジュニアらがヘッドフォンをして、仲良く映画を観る姿はさながら同窓会の雰囲気。話してる内容は、「レニー、最高!」とか、「さっすが、トム・クルーズ!」とか、おべっかばっかなんだけど。
今日は「アマデウス ディレクターズ・カット版」がアマゾン・コムから到着。さっそく、レッツ・プレイ!
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi