コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第310回

2021年7月6日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。


日米間の渡航・水際対策の現状 日本入国とアメリカ入国の違いを記録

簡易検査キット
簡易検査キット

5月末から6月下旬まで日本に一時帰国していた。ロサンゼルスに戻ったいま、今回は日米間の渡航の現状をお伝えしたいと思う。

まず、外国から日本への入国に際しては新型コロナウイルスの出国前検査証明が必要となる。出発時刻の72時間以内に受けたPCR検査で、陰性でなくてはならない。

今年4月19日から日本の空港検疫の確認が厳格化していて、ルール変更したばかりのころは到着しても入国させてもらえず、とんぼ返りにさせられるケースが多発したという。最大のハードルは、同じPCR検査でも、検査検体において「鼻咽頭ぬぐい液(Nasopharyngeal Swab)」か「唾液(Saliva)」のみが有効であるという点だ(※7月1日からは「鼻咽頭ぬぐい液・咽頭ぬぐい液の混合」も有効な検体として認められるようになった。最新情報はこちら。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00248.html)。

アメリカで一般的に無料で受けられるPCR検査は、「鼻腔ぬぐい(Nasal swab)」と言われる検体形式で、これだと陰性でも正当な検査と認めてもらえない。そこで、鼻咽頭ぬぐい液でのPCR検査をしてもらえる病院にいって、鼻の奥深くに綿棒を突っ込まれて痛い思いをしたわけだが、その病院が発行する証明書にはなんと「Nasal swab」と書かれていた。この病院では両者を厳密に区別していないようなのだ。

そんなわけで、今度は唾液で検査してもらうことにした。病院の関係者には「なぜ正確性で劣る方法をわざわざ選ぶんだ」と不思議な顔をされたが、そういうルールだから、と答えるしかなかった。

検査証明書には、検査方法や検査検体や日時だけでなく、パスポート番号や国籍も記載されている必要がある。現地の検査機関でここまでやってくれるところは稀で、所定の用紙にわざわざ記載してくれるところとなると、もっと少なくなる。ロサンゼルスの日本領事館は、所定フォーマットによる検査証明発行可能医療機関のリストをホームページで掲載している。いくつか電話したが、一番安くて125ドルで、高いところとなると300ドルを超えていた。

でも、ぼくはこれらを利用しなかった。アメリカではPCR検査がタダで受けられるのに、出国前検査証明のためだけに余計な出費をしたくなかったからだ。それで、無料で受けられるPCR検査を唾液でしてもらって、その検査結果を日系医院に持参して、所定のフォーマットで証明書を発行してもらった。発行手数料は50ドルだった。

インストールするアプリ
インストールするアプリ

さらに、入国後14日間の健康フォローアップのための質問表に答えてQRコードを獲得したり、指定アプリのインストールなどの準備が必要だ(※詳しくは、厚生労働省のホームページの「水際対策に係る新たな措置について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.htmlをご参照ください。)

でも、最大のストレスは、出国前検査証明の獲得だった。無料のPCR検査にこだわったせいもあるが、結果が出るまで48時間もかかってしまった。刻々と出国時間が迫るなかで、証明書が用意できなかったらどうしようと、じりじりする焦燥を味わった。これがいやなら、多少出費がかさんでも、ワンストップでPCR検査と証明書発行をしてもらえる医院にいったほうがいいかもしれない。

出国当日、ロサンゼルス空港の発券カウンターで「出国前検査証明」、搭乗ゲートで「質問表を提出したときにもらえるQRコード」の提示を求められた。この2つが揃っていないと、飛行機に乗せてもらえないようだ。

日本入国に必要な書類
日本入国に必要な書類

渡航条件が厳しいこともあって、機内はガラガラだった。マスクは飲食時以外は着用していなくてはならないが、お酒は普通に出してもらえる。ひさびさの空の旅は心が躍った。なお、機内で誓約書と追跡アプリのインストールの承諾書を渡されたので、入国前に記入した。

成田空港に着陸してから、試練が待ち受けていた。駐機場ついたのが午後3時45分くらい。でも、乗り継ぎの乗客が優先で、日本が最終目的地の乗客はなかなか下ろしてもらえない。1時間近く待たされてから、係員に連れられて降機する。

廊下に出ると、入国審査と反対側に連れられていく。その先にはパイプ椅子がずらりと並べられていた。ぼくは151と書かれた椅子に座る。つまり、自分の前に150人もの人が待っているのだ。座ってはみたものの、なにも起きない。たまに係員が書類を確認しにくるものの、列がまったく動かないのだ。何が起きているのかまったく分からないまま45分ほど待つと、ガタガタと音がして、前の人たちが移動をはじめた。ぼくも係の人の案内にしたがって前に進むと、今度は101番の椅子に座らされた。そう、45分ほどで50人処理するペースなのだ。11時間のフライトあとに、これは堪えた。

パイプ椅子の列
パイプ椅子の列

結局、受付に通されたのは、午後7時を過ぎてからだった。役所の窓口のような簡易受付で、検査証明などの必要書類がチェックされる。ものの数分で終わり、次が唾液の採取だ。泡を含まない唾液をたっぷり出さなければいけないのだが、何度も経験しているので問題ない。壁に貼られたレモンや梅干しの写真は不要だった。

次は下のフロアにいって、スマホを手渡し、係員によるアプリのインストールの確認や位置情報の設定、連絡用のメールアドレスの確認などが行われる。

最後は待合室と化した搭乗ゲートで新型コロナウイルス検査の結果を待つ。結果はもちろん陰性――だって、出国72時間前も陰性だったし、そもそもファイザーのワクチンを2回打っている――で、陰性証明書を受け取って、ようやく入国手続きへと向かう。空港を出たのは午後8時過ぎ。着陸から4時間半が経過していた。

それからは14日間の自主隔離生活だ。この期間は公共交通機関を使っていけないことになっているので、ぼくは空港送迎つきの都内のウィークリーマンションで過ごすことになった。移動は徒歩かシェアサイクルで、意地でも公共交通機関は使わなかった。

自主隔離のチェックも、以前より厳しくなっていた。健康状態に関するアンケートが毎日メールで届くのは変わっていないが、いまはOverseas Entrants Locatorという位置情報通知アプリの使用が義務づけられている。毎日ランダムでいきなり通知がきて、そのたびに「I am here!」というボタンを押して自分の居場所を報告しなくてはいけない。1日1回のときも複数回のときもあるし、まったく通知がないときもある。さらにMy SOSというアプリを通じて、抜き打ちでビデオ電話がかかってくる。これが14日間もつづく。気の弱いぼくは、もし通知に気づかなかったらどうしようと、びくびくしっぱなしだった。

でも、ぼくはまだマシなほうだった。家族が2週間後に帰国したのだが、その間にカリフォルニア州で変異株が発見されたという理由で、入国から3日間、彼らは検疫所が確保する宿泊施設で強制待機させられることになったのだ(ちなみに、現在カリフォルニア州は対象地域から解除されている)。

家族が隔離されたホテル
家族が隔離されたホテル

妻と2人の子どもは、入国するとそのまま両国にあるビジネスホテルのツインルームに隔離。廊下に出ることすら許されず、そこで3晩過ごすことになった。このときぼくは自主隔離期間が明けていたので――というか、家族の帰国にあわせて先行帰国していたので――、玩具や漫画の差し入れを持参。もちろん面会は許されなかった。

それから3日後、家族は羽田空港で解放された。ぼくはレンタカーでみんなを迎えて、田舎の自主隔離先まで案内した。家族はここで残りの11日間を過ごすことになる。

田舎での自主隔離生活
田舎での自主隔離生活

その後、ぼくは都内にとんぼ返りして、いくつかの用事を済ませて、ロサンゼルスに戻ることになる。

アメリカに入国する際も、「出国72時間以内の陰性証明」が必要だ。でも、いまではPCR検査じゃなくて簡易版の抗原検査(antigen test)で大丈夫。しかも、家庭用の検査キットも認められている。ぼくが使ったのは、Abbottというところが出しているBinaxNOWというもの。アメリカ国内でeMedというサイトを通じて購入し、今回の旅行に持参していた。

使い方はいたって簡単で、日本から出国する3日前にeMedにアクセスする。その後は、ビデオ通話で先方の指示にしたがって検査を行うだけ。結果は15分で判明。もちろん陰性。検査結果はメールだけでなく、NAVICAという健康アプリに送信される仕組みだ。空港の発券カウンターでは、このアプリが生成したパスを見せればいい。

州や地域ごとにルールが異なっていて、ロサンゼルスに戻る場合は、Travel Formという簡単なアンケート(https://travel.lacity.org)に答えなくてはいけない。でも、日本に入国する際の煩雑な事務作業と、面倒なルールと比べると、あっけないほど簡単だ。

この違いは、ワクチン接種者数の違いから出てくるのだろう。たとえば、米疾病予防センターは、渡米者に対して、ワクチンを受けていない人は「7日間の自主隔離ののちPCR検査を受ける」か「10日間の自主隔離」を強く勧めているものの、ワクチン接種者に対して条件を課していない。ワクチンを打っていようがいまいが、14日間の自主隔離(渡航先によっては3日間、または6日間の強制隔離つき)を課す日本とは大違いである。

日本でも最近はペースがあがってきていて、ご年配の方のみならず、職域接種でワクチンを打った知り合いも増えている。これでようやく海外に出張や旅行にいけると、楽しみにしている人も多い。また、痺れを切らして、アメリカにワクチンを打ちにいく人も少なくない。いまやサンフランシスコ空港では、国籍を問わずワクチンを無料で接種できるほどだ。

だが、いったん海外に出てしまうと、再入国する際、ぼくや家族と同じ目に遭ってしまう。海外から新たな変異種を持ち込ませないのはもちろん大事だし、いまの水際対策がこれまでの反省のうえに成りたっていることは理解出来る。でも、日本でも認可されているワクチンを2回きちんと接種し、出国前と入国時に受けた検査で陰性だったぼくに対して、数日おき、ときには連日、ビデオ通話で居場所の確認をするのは、リソースの無駄遣いと思わずにはいられない。

かつて外務省は、国際的な往来を再開させるためにビジネストラックやレジデンストラックという措置を作ったものの、感染悪化で運用を停止している。むしろ、ワクチン接種者を対象にした「ワクチントラック」を作り、帰国14日間待機の緩和をしてはどうかと思う。そうすれば、ワクチン接種者は気軽に海外に出られるようになるし、ワクチン接種に消極的な人も前向きにならざるを得なくなる。ワクチンツアーで外国に出て行く人もずっと増えるだろうし、インバウンドによる景気回復も期待できる。集団免疫の獲得に何割の接種者が必要なのかは分からないけれど、十把一絡げのいまの水際対策より、よっぽど効果があるように思えるのだが。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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