コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第31回

2002年7月1日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE
「マイノリティ・リポート」
「マイノリティ・リポート」
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今回は別の話題について書くつもりだった。たとえば、ベン・アフレック主演の「Daredevil」のセットビジットに行ってきたばかりだから、ハリウッドにおけるアメコミの映画化ブームについて書いてもいいし、公開まであと1年を切った「マトリックス・リローデッド」の最新情報でもいい。あるいは、たまには映画の話題を離れて、日常の些細なことでも、だらだらと書き綴ろうかなんて思ったりしていた。

しかし、「マイノリティ・リポート」を観たら、それ以外のテーマは考えれなかった。この映画について書かなければいけない――ぼくはまるで啓示でも受けたかのように、得体の知れない力に突き動かされていた。

日本よりも一足先に映画を観ることができるぼくにとって、この使命感には馴染みがある。たとえば、去年は「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を観たとき、一昨年は「あの頃ペニー・レインと」や「メメント」を観たときに起きた。傑作だけど、その輝きが地味な作品に出会ったとき、その布教活動に一肌脱ぎたくなるのだ。非力なぼくに出来ることなど限られているのだけれど、その素晴らしくも地味な小品が、だれにも「発見」されずひっそりと消え去っていく様を見るのは、身を切られるように辛い。だって、それらの作品で救われる人は、たくさんいるはずなのだから。

もちろん「マイノリティ・リポート」は、「小品」なんかじゃない。なんてったって、監督はあのスティーブン・スピルバーグ、主演はトム・クルーズで、製作費だって1億ドルを超えるアクション超大作。ほっといてもヒットを飛ばすだろうし、じっさい、アメリカでも3560万ドルのオープンニング成績を飾り、第1位で堂々デビューしている。

しかし、評判のほうは、決して良いとは言えない。全米公開前に試写で観たライターさんたちの反応は、「アクションはいいけど、まとまりに欠ける」とか、「スピルバーグらしくない」とネガティブなものが多かった。新作映画は公開初日に観に行くことにしているぼくも、あまりの評判の悪さに、週明けのマチネー上映まで待ったぐらいである。

結論から言えば、「マイノリティ・リポート」は大傑作だった。フィリップ・K・ディックの短編小説をもとにした今作は、キューブリックの呪縛に囚われていた「A.I.」に比べ、ずっと開放的だ。はじめは目のくらむようなVFXや、不気味な未来像、あるいは、「らしくない」グロテスクな表現に目がいくだろう。しかし、それはあくまで表面だけだ。この娯楽映画に、スピルバーグは欲張りすぎるほどの情報とメッセージ、そして、ありとあらゆる映像テクニックを盛り込んでいる。全編を貫く「水」のイメージ、時制の操作、ハードボイルド的ストーリー展開……。「天才ストーリーテラー」と謳われた彼が、その本領をいかんなく発揮しているのだ。

ぼくは涙が出そうになった。そこには、まるで、8ミリカメラを初めて手にした子供のような、無邪気な喜びが満ちていた。創造性に溢れ、既存の慣習に捕らわれない自由があった。自分が観たい映画を、好きなように作ってやるという強い意志があった。ここにはもう「ファミリー映画のスピルバーグ」はいない。

「ジョーズ」でブロックバスター映画の公式を生み出したスピルバーグ監督は、他の監督たちがそのパターンの踏襲に甘んじているなか、さらに一歩前に踏み出した。刺激的な映画を探している人、新しい映像作家との出会いを求めている人にこそ、「マイノリティ・リポート」をお勧めしたい。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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