コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第286回

2017年6月5日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第286回:猫好き必見!トルコの猫ドキュメンタリー「Kedi」に見る人間と野良猫との幸せな関係

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最近はドキュメンタリーの撮影で、 知らない土地に一人で出かけることが多くなった。たいていはノルマに追われバタバタしているのだけれど、たまに本数の少ない電車を乗り過ごして、ぽっかりと時間が出来るときがある。そんなときは散歩に繰り出すのだが、風情のある街並みや美しい自然よりも、僕の心を揺さぶるものがある。それは、野良猫との遭遇だ。ブロック塀や軽自動車のボンネットの上などに猫を見かけると、なんとも幸せな気分になる。適度な距離を保ちつつ、活動拠点はどこかな、どんな人にご飯をもらっているのかな、などと妄想しながら、時間が許すかぎり観察する。傍目には怪しい人間に映っているのは分かっているのだけれど。

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もし、あなたが僕と似たような猫好きならば、必見の映画がある。トルコ語で猫を意味する「Kedi」というタイトルのドキュメンタリー映画だ。

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舞台となる古都イスタンブールには何万もの野良猫が暮らしているという。この映画は、そのなかの7匹の個性的な野良猫たちと、猫を取り巻く人間模様を描いていく。

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たとえば、最初にサリと呼ばれるイエロータビー&ホワイトの雌猫が登場する。観光名所ガラタ塔の土台に住んでいる彼女は、周囲のカフェやレストランの観光客にご飯をおねだりしたり、ちょっとした隙に盗んだりする。そのせいで、「ペテン師」とか「黄色のクソ」などと、ひどい名前で呼ばれている。体は決して大きくないのに、どうしてそこまで食い意地が張っているのか? その謎は、やがて明らかになる。サリは実は母猫で、子猫たちのために必死に食料を調達しているのだ。

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こんな感じで、残りの6匹も紹介されていく。それぞれ外見も性格も特技も生活環境も驚くほど違っている。彼らはそれぞれ人間から食料や宿を得ているわけだが、彼らの面倒を見ている人間たちは、無償の奉仕をしているわけではない。ある人にとって野良猫はロールモデルであり、ある人にとっては神の遣いなのだ。つまり、猫たちは人間たちに癒しや生き甲斐を与えているのである。おそらくイスタンブールでは、過去数千年にわたって人間と野良猫との幸せな関係が脈々と続いているのだ。

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この映画には押しつけがましいテーマも、強引なクライマックスもない。あるのは、イスタンブールの美しい風景と人々の営み、そして我が物顔で街を闊歩(かっぽ)する可愛らしい猫たちだけだ。猫に興味がない人は、ドラマに欠けると言うかもしれないけれど、猫を愛する人と旅行好きの人にとってみれば、まるで白昼夢のような作品である。アメリカではYouTubeの有料プログラム、YouTube Redで配信されている(編集部注:日本では1250円で購入可)。確かに、映画館で一気に観るよりも、自宅のテレビで視聴しながらうたた寝するのが正しい向き合い方のような気がする。自由気ままに生きる猫たちの映画だしね。

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筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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