コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第281回
2017年1月5日更新
第281回:意外と知らないゴールデングローブ賞の秘密:セレブ大集合のセレモニーは食事も豪華!
今年は暦の都合でゴールデングローブ賞が例年よりも早い1月8日(現地時間)に行われる。クリスマス休暇が開けてから1週間もない状態で大がかりなイベントを仕込まなくてはいけないので、会場となるビバリーヒルトン・ホテルではいま急ピッチで準備が行われている。
ゴールデングローブ賞というとアカデミー賞の前哨(しょう)戦として語られることが多く、受賞作やスターにばかり注目が集まるけれど、今回は授賞式としての形態について紹介したいと思う。ゴールデングローブ賞の特徴のひとつは、円卓を囲んだ宴会形式で行われることだ。出席者は食事や会話を楽しみながら、司会や受賞者のスピーチを聞く。劇場で畏まって座っていなければならないアカデミー賞とは違って、結婚披露宴のようにとてもカジュアルなのだ。また、他の映画賞と違って、美術や衣装、VFXのような技術賞が存在しない。裏方はせいぜい脚本家と監督、作曲家くらいで、あとは俳優ばかり。しかも、映画だけでなくてテレビ部門もあるから、他のどの映画賞よりもセレブリティの密度が高いのだ。
宴会形式なので、当然、食事やお酒も振る舞われることになる。先日、今年のゴールデングローブ賞で振る舞われるメニューのお披露目会が行われた。前菜はグリーンサラダならぬ“ゴールデンサラダ”。ゴールデンビーツを使っているからだとか。メインはいつも肉と魚の両方が一皿に載った「サーフ&ターフ」と決まっていて、今回はフィレミニョンとチリ産スズキ。今年からビバリーヒルトン・ホテルのエクゼクティブ・シェフがイタリア人になったため、付け合わせにリゾットが加わるなど、イタリア色が強い。デザートは3種のスイーツ。いずれも高価なドレスを汚さないように汁気が少なく、また、長時間テーブルに置いていても型崩れしないなどの配慮が施されている。
飲み物は公式スポンサーのモエ・エ・シャンドンと、白と赤のワイン。ただし、セレブのなかでお酒に口をつける人はあまりいない。生放送中にいつカメラを向けられるか分からないうえに、受賞した場合にはきちんとスピーチをこなさなければならないというプレッシャーがあるからだ。こうした理由から、ベテラン俳優のなかにはテレビ放映されなかった頃のゴールデングローブ賞が懐かしいと嘆く人も少なくない。ただ、デザートに関しては完食する人が意外に多い。ゴールデングローブ賞に向けてダイエットをしてきた人も、レッドカーペット取材をクリアしたあとでは、自分にご褒美ということなのかもしれない。
ぼくにとってのゴールデングローブ賞は、シリアスな映画賞というより、1年でもっとも華やかなパーティーだ。あまりにもたくさんの才能がこの世を去り、憎悪と差別を煽(あお)る人間が次期大統領に決まった2016年は、控えめに言ってもろくでもない年だった。だからこそ、17年の最初の祭典であるゴールデングローブ賞授賞式を心から楽しみたいと思っている。日本のみなさんも、できればシャンパングラスを傾けながら、ハリウッド最大のパーティーをリビングで鑑賞してくれたら嬉しい。
第74回ゴールデングローブ賞授賞式は、日本ではAXNで放送。1月9日午前8時55分~生中継。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi