コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第265回

2015年7月21日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第265回:【コミコンレポ】思わぬサプライズが満載だった「スター・ウォーズ」プレゼン

米サンディエゴで行われるポップカルチャーの祭典コミコンに、今年も記者として参加した。今回は例年以上にテレビドラマが充実していて、「ウォーキング・デッド」のスピンオフ「Fear The Walking Dead」や「スーパーガール」、「ヒーローズ・リボーン」といった新ドラマから、「エクスタント」、「オーファン・ブラック」、「エージェント・カーター」、「ドクター・フー」などの人気ドラマのキャストを取材。映画では、「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」や「ザ・ヘイトフル・エイト」、「ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション」、「デッドプール」といった大作のプレゼンテーションに参加したが、ハイライトはやはり「スター・ウォーズ フォースの覚醒」だった。

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実は、今回のコミコンで「スター・ウォーズ」は注目度ナンバーワンだったけれど、個人的にはあまり期待していなかった。サンディエゴ・コンベンション・センターのホールHで行われるパネルディスカッションは、詰めかけた6000人のファンに予告編や劇中映像を披露するのが慣習となっている。しかし、ルーカスフィルムは今回のイベントで「フォースの覚醒」の新たなフッテージは公開しないと予告していたのだ。

実際、J・J・エイブラムスと脚本家のローレンス・カスダン、ルーカスフィルムのキャスリーン・ケネディ社長が登場すると、会見は地味にスタート。彼らはファンからの質問に丁寧に答えていった。

しかし、すぐにひとつ目のサプライズが披露される。予告編や劇中映像ではなく、「フォースの覚醒」のメイキング映像が公開されたのだ。制作風景やコンセプト画などをコミコン用にまとめたもので、完成作への期待を煽るのに十分な内容であるうえに、作り手が「スター・ウォーズ」に愛情をたっぷり注いでいることが伝わるものだ。しかも、裏方の視点で描かれているので、視聴者も「スター・ウォーズ」の撮影クルーの気分を味わうことができる仕掛けになっている(この動画はすでに一般公開されている)。

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その後、新キャストに続いて、キャリー・フィッシャーマーク・ハミルが登場。彼らが来場者からの質問に答えていると、ハリソン・フォードがサプライズで登壇した。フォードといえば、もともと映画宣伝に積極的なタイプではないし、昨年、飛行機事故を起こしているから、誰もこの場に現れるとは思っていなかった。会場は歓喜の渦に包まれ、「スター・ウォーズ」会見は見事なフィナーレを迎えた。

しかし、J・J・エイブラムス監督はサプライズをもうひとつ用意していたのだ。

『スター・ウォーズ』のコンサートに今すぐ行きたい人はいるかい?」

そう呼びかけると、ホールHに詰めかけたファン全員を、スペシャルコンサートに招待するという。かくして、僕らはストームトルーパーたちに先導されて、ヨットハーバー沿いにある特設会場まで大移動することになった。コミコンの45年に及ぶ歴史のなかでも、こんなことは1度もなかったはずだ。

屋外の特設ステージには、サンディエゴ交響楽団がスタンバイしていた。「フォースの覚醒」のキャストやスタッフが登壇して挨拶したのちに、現在「フォースの覚醒」の作曲を行っているジョン・ウィリアムズがビデオで登場。そして、「帝国のマーチ」を皮切りに、「スター・ウォーズ」の屋外コンサートがはじまったのだ。

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多くの映画関係者にとって、コミコンは単なる宣伝機会だ。熱狂的で拡散力のあるコミコンの来場客を取り込むことができれば、とてつもない宣伝効果を得ることができる。だからこそ、会見では未公開映像を見せたり、大物スターを登場させたりする。

しかし「スター・ウォーズ」のアプローチは少し違った。彼らはコミコンをファン感謝デーにしたのである。

もちろん、「フォースの覚醒」はいまさら宣伝の必要がないほど知れわたっているし、現時点で内容を明かしすぎてしまうと公開前にピークがきてしまうリスクがあるという事情もある。それでも、生半可な気持ちでは、サンディエゴが交通麻痺状態になるコミコンの開催時期に、特別コンサートなんて仕切れない。許認可や警備、設置などの手間とコストを想像しただけで、目眩がする。しかも、これらを秘密裏にやってのけたのだ。

実はコミコンと「スター・ウォーズ」とは密接な関係にある。1976年、ルーカスフィルムは当時まだ無名だった小規模の新作映画「スター・ウォーズ」をコミコンで告知。コンセプト画やスチール写真を数点展示しただけのシンプルなものだったが、これがクチコミを呼び、「スター・ウォーズ」の大ヒットに繋がったと言われている。同時に「スター・ウォーズ」を輩出したイベントということで、コミコンにも注目が集まるようになったのだ。

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そして、2015年、「スター・ウォーズ」が新たなスタートを切るにあたり、ルーカスフィルムは「スター・ウォーズ」を支えてくれたコミコンのファンに感謝の気持ちを示すことにしたのである。

数千人のファンがライトセーバーを夜空に掲げ、雄大に奏でられる名曲に耳を傾けている姿を眺めているとき、ある考えが頭をよぎった。ポップカルチャーの歴史に残るイベントに、僕は居合わせているのだ、と。もし、「スター・ウォーズ フォースの覚醒」が予定通りに大成功すれば、これから数十年にわたって新作が生み出されていくはずだ。

いつか孫ができて、「スター・ウォーズ」に夢中になる年頃になったら、きっと僕は自慢するに違いない。あの2015年のコミコンに幸運にも居合わせたこと。そのコンサートのクライマックスで打ち上げられた花火が世にも美しかったことをね。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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