コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第205回
2012年11月15日更新
第204回:ピーター・ジャクソン&ジェームズ・キャメロンが目指す映画の“HFR”化
アメリカで「ホビット 思いがけない冒険」の前売り券の発売がスタートした。今回は、3Dと2D、IMAX 3Dだけではなくて、HFR 3Dという新フォーマットでも上映されるから、「HFR 3Dってなんなんだ?」という人のために、配給も映画館サイドも説明に追われているようだ。
HFRとは、Higher Frame Rateの略で、通常の1秒24フレームではなく、それ以上のフレーム数(「ホビット」は48フレーム)での上映ということになる。単純に言えば、これまでの映画は1秒につき24枚の写真で構成されていたのが、HFRでは倍以上の枚数が使用されることになる。
映像制作に関わったことのない人には、この試みの大胆さが伝わらないかもしれない。映画のフレーム数は、1920年代から毎秒24フレームと決まっている。たとえば、フィルムで撮影されたハリウッド映画の映像と、ビデオカメラで撮影されたニュース映像の質感が違って見えるのは、ダイナミックレンジやレンズの違いだけでなく、フレームレートが大いに関係している。ビデオのフレームレートが基本的には毎秒30フレームであるのに対し、フィルムは20年代から毎秒24フレームと決まっている。最近はデジタルシネマが浸透して、ビデオとフィルムの境界線が曖昧になっているけれど、映画的な映像を撮りたければ、毎秒24フレームで録画するのがセオリーだ。少ないフレーム数から生まれる独特のちらつきが、映画的な印象を与えるのだ。
しかし、映画の常識を変えようという動きがある。首謀者は、ピーター・ジャクソン監督とジェームズ・キャメロン監督だ。先日、「シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語」でキャメロン監督に取材したときも、数年前からジャクソン監督とHFR普及計画を温めていたことを明かしてくれた。「僕らは映画体験を改善していく努力を続けるべきだ」と言うキャメロン監督は、「アバター2」と「アバター3」を毎秒48フレームか60フレームで撮影することにしているという。
キャメロン監督によれば、HFRになると画面のちらつきが消えるから、3Dの迫力映像とあいまって、これまでにない臨場感を提供できるという。ただし、普及のためのハードルは高い。デジタル映写機が普及している現在では、HFR映画の上映は難しくはない。問題は、観客の先入観だ。これまで1世紀近くにわたり、24フレームに慣らされてきたので、フレーム数が増えると低予算の昼ドラのように安っぽく感じてしまうのだ。実際、「ホビット」のフッテージ上映が行われたときは、否定的な感想が多かったが、完成作をHFRで見た人はまだいない。アメリカにおいて、「ホビット」のHFR上映館は約450館。「ホビット」の成功を心から祈っていると、キャメロン監督は言った。
僕もHFRでの鑑賞を心待ちにしている。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi