コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第197回
2012年9月18日更新
第197回:恋愛映画ベタも夢中に!ブラッドリー・クーパー主演作の魅力を解説
映画鑑賞を生業にしている人間が口にしてはいけないのかもしれないけれど、僕はホラー映画と並んで、ラブストーリーやロマンティックコメディが苦手である。どの物語も男女が出会い、障害を乗り越えて愛を深めていくというボーイ・ミーツ・ガールの構成で、結末がわかりきっているために夢中になることができないのだ。もちろん、最近は描かれる恋愛のバリエーションが多様化しているし、クオリティの高いものはもちろん評価している。それでも恋愛そのものを題材にするより、他のジャンルに織り込まれたタイプのほうがずっと好きだ。たぶん、僕にはロマンティックな感性が欠落しているのだろう。
そんな僕が久々に恋愛映画に夢中になった。「スリー・キングス」や「ザ・ファイター」などで知られる個性派監督デビッド・O・ラッセルの新作「Sliver Linings Playbook」である。全米公開は11月、日本公開は未定だけれど、きっと賞レースにからんでくる作品なので一足早くご紹介します。
主人公は、元教師のパット(ブラッドリー・クーパー)。かつてある事件を起こし、精神病院入りしていた彼が退院するところから物語がはじまる。実家で療養をはじめたパットは、自らの生活を立て直すことに専念する。元妻ニッキーとよりを戻せば、すべてが元通りになると信じるパットだが、ニッキーはすでに引っ越ししていて、誰も連絡先を教えてくれない。誰がどう見てもパットはニッキーに避けられているのだが、入院中にポジティブ思考を身につけた彼は、どんな悪いニュースもプラスに捉えてしまう。
ある日、パットは自分と同じように精神的トラブルを抱えているティファニー(ジェニファー・ローレンス)に出会う。エキセントリックな行動を繰り返すティファニーに辟易(へきえき)するパットだが、彼女がニッキーの現在の居場所を知っていることを突き止め、態度を改める。かくしてパットは、ニッキーに手紙を手渡しすることを条件に、ティファニーに提示された無理難題を引き受けることになる、というのが主なあらすじ。
インディペンデント映画にありがちなオフビートなロマンティックコメディなのだが、主人公が健常者ではなく、精神のバランスを欠いた人物というのがとても新鮮だ。元妻との関係回復を目指すストーリーではあるものの、本人が自分の抱える問題にまったく気づいていないため、無様な空回りを繰り返し、笑いとペーソスを引き起こしていく。そんなパットが、同じような問題を抱えた女性と出会い、お互いを癒していくプロセスは感動を呼ぶ。おまけにクライマックスではスポ根映画のような盛り上がりを見せるのだ。ロバート・デ・ニーロをはじめ共演陣のキャスティングも完璧で(「ラッシュアワー」シリーズのクリス・タッカーがいい味を出している)、こんなサプライズに満ちた恋愛映画なら、いつでも大歓迎だ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi