コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第149回

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第149回:シリアスな闘病ドラマを一風変わった青春ドラマに昇華した「50/50」

50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」という新作映画の試写をすすめられたとき、あまり気が進まなかった。宣伝会社の人によれば、癌を告知された男の闘病ドラマで、タイトルは主人公の生存確率を指しているのだという。こういうご時世もあって、いまはシリアスな映画を見て気分を落ちこませたくないし、感動の押し売りにもうんざりしている。闘病ドラマということは、いずれかに当てはまる可能性が限りなく高く、だからこそ遠慮したかった。しかし、いまとなっては、そんなぼくを試写室にひきずりだしてくれた宣伝担当者に心から感謝している。「50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」は、おそらく今年のベスト10に入るほどのお気に入り映画となったからだ。

ジョセフ・ゴードン=レビット演じる主人公アダムは、ラジオ局に勤務する普通の若者だ。同棲中のガールフレンドと、悪友のカイルに囲まれ、ありきたりの日々を暮らしている。しかし、背中に痛みを覚えるようになってから、生活が一変。特殊な癌に冒されていることを告げられたアダムは、抗癌治療を受けながら、死の可能性と向き合うことになる――。

良質な闘病ドラマというのは、重病に冒された主人公が、残された時間が少ないと悟り、自らの生活をドラスティックに変えるというパターンになっている。黒澤明監督の傑作「生きる」はもちろん、大好きな米ドラマ「ブレイキング・バッド」にしてもそうだ。「50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」の主人公も同じルートを辿ることになるわけだが、その歩みが他の映画の主人公とちょっと違う。彼は20代の脳天気な若者で、自分が癌にかかるなどという可能性を考えたことがない。まったくの準備不足だから、癌という現実を容易に受け入れることができないし、勘違いをしたり、ばかばかしいミスを犯したりする。そのドタバタがリアリティたっぷりに面白おかしく描かれているのだ。ファニーで切なく、おまけに友情とラブストーリーまで織り込まれているから、風変わりな青春ドラマといったほうがいいかもしれない。

(※ここからは映画の結末に関するネタバレが含まれています)

実は、「50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」は友人カイルとして出演しているコメディ俳優、セス・ローゲンの友人の身に起きた出来事を下敷きにしている。サシャ・バロン・コーエンのお下劣キャラクター、アリ・Gを主役にしたコメディ番組「Da Ali G Show」で構成作家をしていたとき、ローゲンは共同プロデューサーのウィル・ライザーと親しくなるが、その後、ウィルは癌を発症。その後のふたりの経験が、そのまま「50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」に反映されているのだ。

のちに癌を克服したウィル・ライザーは、自らの体験をもとに「50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」の脚本を執筆。その脚本に感激したローゲンは自らプロデューサーとして、映画化に尽力。「50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」は、ふたりの友情から生まれた結晶であり、だからこそさわやかな感動を生むのかもしれない。

50/50 フィフティ・フィフティ(仮題)」は、9月30日に全米公開。12月から日本公開予定。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」(http://www.miraikonishi.com)では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。