コラム:細野真宏の試写室日記 - 第213回
2023年7月28日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第213回 「キングダム 運命の炎」は邦画実写の年間興行収入1位になれるか? 収支はどうなる?
今週末7月28日(金)から「キングダム 運命の炎」が公開されます。
この「キングダム」シリーズは、本作で3本目となります。2019年4月19日に公開された第1弾「キングダム」は興行収入57.3億円で「2019年公開の邦画実写作品で興行収入1位」を記録しました。
2022年7月15日に公開された第2弾「キングダム2 遥かなる大地へ」は興行収入51.6億円。「2022年公開の邦画実写作品で興行収入1位」を記録しています。
この流れから考えると、第3弾「キングダム 運命の炎」も「2023年公開の邦画実写作品で興行収入1位」を記録すると想定されますが、実際のところどうなのでしょうか?
本シリーズは、邦画実写作品で「通常の作品の5倍~7倍の制作費をかけた作品」とされる超大作なので、今回は経済的な視点を中心に考察してみます。
まず、第1弾の制作費は「全国300スクリーンで公開される一般的な邦画の5本分」というのが“ウリ”になっていました。確かにスケール感もあり、邦画実写もお金をかければキチンと迫力のある映画が作れると実感できました。
その甲斐もあり、想定リクープラインの興行収入30億円を超え、興行収入57.3億円を記録し、続編の製作にゴーサインが出ました。
第2弾の制作費は、「全国300スクリーンで公開される一般的な邦画の7本分ぐらい」とプロデューサーがインタビューで語っています。
この表現から、第2弾、第3弾の制作費は、1作あたり13.3億円の制作費であると想定されます。
そのため、第2弾以降の(2次利用なども含めた)リクープラインは、宣伝費などのP&A費を、制作費と同額使うとすると、興行収入40億円が目途となりそうです。
(ただし、計画にない入場者特典などを付けたりすると、そのリクープラインが上がることになります)
第1弾と第2弾以降で注目したい点としては、製作幹事の変化があります。
それは第1弾の段階では、製作幹事は、集英社、ソニー・ピクチャーズ、日本テレビの3社でしたが、第2弾以降では集英社、日本テレビの2社になっています。
第1弾の段階では、海外での興行にも期待していましたが、結果的には海外ではあまり響かなかったのです。
アニメーション映画の場合は容易に国境の壁を超えることができますが、実写の場合は本作の予算をもってしても難しい面があるようです。
一般にシリーズ映画は、前作を見ていないと、続きとなる作品を見ない場合が多くなるため、「前作の8掛け」くらいが目途とされています。
そのため、第2弾は興行収入45.84億円が目途でしたが、実際は興行収入51.6億円で「前作の9掛け」にとどまり、シリーズ作品として優秀な結果を残しています。
ただ、「制作費はアップしているので、前作超えを目指していた」と想定される意味では、やや残念な結果とも言えそうです。
では、第3弾「キングダム 運命の炎」は、どうなるのでしょうか?
まず、前作と同様に、幹事会社の日本テレビが金曜ロードショーで「キングダム2 遥かなる大地へ」を放送したりして盛り上げます。
そのため、スタートダッシュは期待できるでしょう。
とは言え、本作で大きく跳ね上がる要素も見つけにくいので、「前作の9掛け」である興行収入46.44億円にいければ十分な合格点だと思います。
というのも、前作では、公開から約1カ月後の8月11日から入場者特典で80頁の「キングダム伍巻」100万冊を付けていたからです。
このような入場者特典が本作でもあるのかどうかにもよりますが、興行収入45億円あたりが現実的な数字だと想定されます。
実は、この興行収入45億円というのは注目すべき数字なのです。
というのも、TBS日曜劇場で放送された「TOKYO MER 走る緊急救命室」の映画版となる「劇場版 TOKYO MER 走る緊急救命室」が公開13週目の7月23日時点で、興行収入44億9959万8360円と45億円突破が確実だからです。
このように、「キングダム 運命の炎」が邦画実写の年間興行収入1位になれるかどうかは、非常にギリギリのラインにあると言えそうです。
今後のことを考えると、本作でも「邦画実写の年間興行収入1位」という称号を手に入れたいところですが、仮に入場者特典を連発するとリクープラインが40億円を超えてしまい、収支が厳しくなる面も出てくるのです。
以上の点から、「キングダム 運命の炎」が邦画実写の年間興行収入1位になれるかどうかは、経済的な視点からも非常に興味深く、大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono