コラム:ニューヨークEXPRESS - 第49回

2025年6月5日更新

ニューヨークEXPRESS

ニューヨークで注目されている映画とは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。


処刑人ショーン・パトリック・フラナリー、“怪演”で魅せる 「ネファリアス」で得たのは「一生モノの役」

ショーン・パトリック・フラナリー
ショーン・パトリック・フラナリー

1990年代、TVシリーズ「インディ・ジョーンズ 若き日の大冒険」の青年インディ役で注目され、その後も映画「パウダー」や「処刑人」シリーズなど、長年ハリウッドで活躍してきたショーン・パトリック・フラナリー。そんな彼が“怪演”で魅せているのが、注目の独立系映画「ネファリアス」だ(公開中)。

同作は、刑務所で繰り広げられる殺人鬼と精神科医の心理戦を緊迫感たっぷりに描いたホラーサスペンス。精神科医ジェームズは、死刑執行予定の連続殺人犯エドワードの精神鑑定を行うため刑務所を訪れるが、前任の医師フィッシャーは、エドワードの精神鑑定の結果を提出する前に自死してしまい、死刑執行の最終判断はジェームズに委ねられるが、エドワードは自分がネファリアスという悪魔だとジェームズに打ち明けたことで、2人の心理戦が始まっていく。

フラナリーが二面性を持つ殺人鬼エドワード役に挑戦。「クモ男の復讐」などの脚本家コンビ、チャック・コンツェルマンケイリー・ソロモンが監督・脚本を担当している。

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まず、脚本の第一印象について聞いてみた。

「映画『パウダー』の脚本を読んだとき『これは一生に一度の役なんだ』と思った。そして今回の『ネファリアス』の脚本を読んだときも、『誰がこの役を演じようとも、私にとっては一生モノの役になる』と感じたんだ」

監督に加え、脚本も手掛けたコンツェルマン&ソロモンについては「私がこの業界で出会った中で最高の脚本家だと思っている。一音節たりとも変えないような脚本を読むことはめったにない」と語っている。

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ネファリアスと対峙するジェームズ・マーティン博士を演じるのは、俳優のジョーダン・ベルフィ。現場では、どのような話し合いをしたのだろう。

「ネファリアスを演じるにあたって、一番懸念していたのは、テーブルの向こう側にいる相手役だ。自分の意見をすべてチャック・コンツェルマンケイリー・ソロモンに伝えたところ、彼らが検討しているキャスト全員の情報を私に共有してくれたんだ」とのこと。ほぼ刑務所内での二人芝居になるため、事前に彼なりの意見を伝えていたようだ。撮影の2日前、ホテルで会うまでベルフィとは話したことがなかったが、キャスティングについては「チャックとケリーは素晴らしい決断をした」と語っていた。

コンツェルマン&ソロモンは、子どもの頃は“隣同士”で育ったそうで、現在も息もぴったり。フラナリーとは「プリズン・ヴァンパイア」という作品で、一度タッグを組んでいる。では、共同監督として、現場での仕事はどのように分配しているのだろう。

「彼らは兄弟のようで、まるで以心伝心しているようだ。一人が立ち止まると、もう一人が何かを伝えるかのように頷く――見ていて驚かされたよ。意見が食い違うことはめったになく、まるでひとりの監督と仕事をしている感覚だった」

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ほぼ刑務所内でストーリーが展開されるため、セリフに依存する作品でもある。フラナリーは「正直、(他の作品では)私は10回中9回は、自分の口から出る言葉をすべて変えている」と普段から脚本を読み込み“自分の言葉”として落とし込んでいるそう。ところが今作では違う。「冗談じゃなくて、今作では、わずか2つの単語を調整したくらいだ。それだけなんだ。それ以外はすべて、彼らが(脚本に)書き留めてくれた。これは彼らの言葉だ。それだけ彼らの脚本は優れている」と称賛した。

劇中で演じる「ネファリアス=エドワード・ウェイン・ブラディ」は、6人を殺害した連続殺人犯であり、人を操る達人でもある。連続殺人犯について、何かリサーチを試みたのだろうか。

「演技の過程について他の俳優たちは、精神的にも肉体的にも大掛かりで複雑な手順を踏んでいると思うが、私にはそれがない。私の研究はすべて台本を読むことから始まる。脚本が十分な出来であれば、それはキャラクターの作り方の説明書のようなものだからだ。私がやったことはすべてページに書いてある」

脚本を読んだうえで「よし、このタイプの人物のマナーはどうだろう?」と考え、そこから「彼がどんな話し方をするか、どんな表情をするだろうか? 彼の話し方はどうだろう?」と役柄を膨らませていったそうだ。

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今作の見どころは、なんと言ってもネファリアスとジェームズ博士の心理戦。そこに張り詰める緊張感は特筆すべきものがある。「それは編集によるものだ。私の仕事は俳優としてパズルのピースをデザインするだけ。あとは編集者の仕事で、パズルのピースを組み立て、切り、組み合わせることだ。本当に編集者は素晴らしい仕事をしたと思う」と感謝した。

“テーブルで2人が1時間しゃべっているだけ”――なのに、人々からは「すごいじゃないか」と評価されたそう。異なるアングルから2人の顔を8カットしか撮っていないのにもかかわらず、2人の演技に興味を持たせ続けたのは「編集者のおかげなんだ」と念押しした。

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最後に聞いたのは、観客が「ネファリアス」から何を感じ取って欲しいのかということ。

「私は映画が好きなんだ。子どもができる前、僕と妻はよく映画館に行った。鑑賞後に食事に行って、映画の話をするのが大好きだった。良い映画でなければ、その会話は5分で終わるが、素晴らしい映画だったら、2~3日続くこともある、異なる視点を提供するというアイデアが好きなんだ。人は自分で決断する。今作には何か秘めた動機があるわけではないが、私は今作について強い思いを感じているし、それが人々に影響を与えることを願っている」

筆者紹介

細木信宏のコラム

細木信宏(ほそき・のぶひろ)。アメリカで映画を学ぶことを決意し渡米。フィルムスクールを卒業した後、テレビ東京ニューヨーク支社の番組「モーニングサテライト」のアシスタントとして働く。だが映画への想いが諦めきれず、アメリカ国内のプレス枠で現地の人々と共に15年間取材をしながら、日本の映画サイトに記事を寄稿している。またアメリカの友人とともに、英語の映画サイト「Cinema Daily US」を立ち上げた。

Website:https://ameblo.jp/nobuhosoki/

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