コラム:人間食べ食べカエル テラー小屋 - 第8回

2019年9月18日更新

人間食べ食べカエル テラー小屋

盲目老人VS人狼「ローンウルフ」で不器用な男の熱い生きざまにホロリ

Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」が、映画.comに爆誕!! “人喰いツイッタラー”が、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE」の配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす! 9月の作品は「ローンウルフ 真夜中の死闘」だ!

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盲目の元軍人アンブローズ(ニック・ダミチ)は、パートナーである盲導犬のシャドウと共に、老人居住区に移り住む。妻に先立たれた彼は孤独で、息子はいるが折り合いが悪かった。引っ越し後も退屈な日常が続くと思っていたが、満月の晩に早速事件が起きる。隣に住む女性が何かに襲われて死亡したのだ。異変に気付いたアンブローズも同様に襲われ、愛犬シャドウの命を奪われてしまう。やがて襲撃者の正体に気付いた彼は、次こそ確実に“奴”を倒すため、来る決戦の日、つまり1カ月後の満月の晩に向けて、戦闘準備を開始する!!!

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まあ、その“奴”というのが人狼で、それを迎え撃つは元軍人の盲目老人。つまりは、ドント・ブリーズVSドッグ・ソルジャーみたいなもので、設定の時点でもうテンションが上がるってもんです。こんな最高すぎる対戦カード中々ないよ!! 老人は元軍人といえども、目が見えないというハンディキャップがある。そんな中で、人狼の攻撃からどう生き延びるのか。想像するだけでワクワクが止まらない。

ただ、本作の監督は、あのアドリアン・ガルシア・ボグリアーノである。全身にニトログリセリンを塗られ、下手に動けば即爆発!というトンデモシチュエーションスリラー「NITRO ニトロ」をはじめ、彼の手掛けた作品は一癖も二癖もあるものばかりだ。本作も当然、人狼と老人のバトル祭り!!というストレートなノリのアクションホラーではない。本作で最も時間を多く割いて描かれるのは、盲目の老人アンブローズが人狼との戦いに備えながら送る日常である。

引っ越した矢先、世話焼きな隣人たちを銃で追い返すという凄まじい偏屈ぶりを見せつけるアンブローズ。その後、満月の晩に、隣人の女性が人狼に襲われて内蔵モロ出しになるという凄惨な事件が発生し、隣から様子を伺っていたアンブローズ自身も襲撃されて、愛犬シャドウの命を奪われてしまう。戦いを決意したアンブローズは、老体に鞭打って身体を鍛え、家の中で歩数を数えながら歩いて間取りを把握し、時にはスコップの素振りをし、戦いの準備を進めていく。

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その中で、息子との確執や、コミュニティとの関わり、唯一アンブローズが心を開いている神父とのドラマが丁寧に描写される。これらを、非常にゆったりとしたテンポで描いていくので、バトル一辺倒を期待すると肩透かしを食ってしまうかもしれない。しかし、ただダラダラと描く訳ではなく、人間ドラマはしっかりと内容の詰まったものになっているし、終盤に向けて話を徐々に盛り上げていく仕掛けもあり、飽きることはない。むしろ、この日常パートが本作の大きな魅力となっている。神父とのやり取りを通して、アンブローズが自らの過去や息子と向き合っていく過程は胸に来るものがある。

アンブローズを演じるニック・ダミチも、見事なまでに役にハマっている。ダミチと言えば、伝説の名作「ステイク・ランド 戦いの旅路」で、少年を鍛えるヴァンパイアハンターの役が印象的な激渋の俳優だ。本作では実年齢よりも更に高齢の役を演じているため、持ち前のいぶし銀な魅力がこれでもかと溢れ出ている。

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そしてクライマックス、満月の晩が再びやってくる。アンブローズは、かつての“正装”である軍服を身にまとい(戦いの前に正装に着替える描写は大好きです!!!)、仲間を増やした狼人間を迎え撃つ。一方、集団で家を取り囲み、次々と襲撃してくる狼人間たち。戦力に差がある状況の中、アンブローズは、目が見えないハンデを「補聴器による聴力強化」という対策でカバー! かつて戦場で培った戦闘スキルを駆使し、人狼を補聴器でサーチ、銃でデストロイしていく。傷を負いながらも人狼に果敢に立ち向かっていく決死の姿に、思わず拳を握ってしまう。

両者の激しく泥臭いバトルは期待以上の仕上がりだ。アンブローズが戦いに備えてきたこれまでのパートが、見事クライマックスにかけて収束していく様は実に見応えがある。人狼とアンブローズのタイマンバトルまで盛り込む贅沢ぶりで、クライマックスにふさわしい素晴らしい見せ場だった。

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狼人間との攻防を通して、一人の男の、不器用だが一本筋の通った熱い生きざまが描かれた作品。己がこれまで積み重ねてきた人生にどう落とし前をつけるのか。壮絶な戦いを経た後に迎えるラストに思わず目頭が熱くなる。最後のカットは本当に格好良かった。独特な味わいではあるが、観る者の心をガッツリ掴むバトル老後ムービーの秀作だ。

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筆者紹介

人間食べ食べカエルのコラム

人間食べ食べカエル(にんげんたべたべかえる)。人間食べ食べカエルです。X(旧Twitter)で人喰いツイッタラーをやっています。ID @TABECHAUYOで検索してみてください。WEBや誌面で不定期に寄稿をするほか、新作へのコメントなどを書いています。好きなジャンルはホラーとアクションで、特にモンスターに人が食べられるタイプの映画に目がありません。「ザ・グリード」に出てくる怪物を目指して日々精進しています。どうぞよろしくお願いします。

Twitter:@TABECHAUYO

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