コラム:シネマ映画.comコラム - 第5回

2022年1月28日更新

シネマ映画.comコラム

第1回サステナブル未来映画祭開催!

本コラムの第5回目は、1月28日から2月10日までシネマ映画.comでオンライン開催中の「第1回サステナブル未来映画祭」で配信される8作品をピックアップします。映画.comの駒井尚文編集長、編集部&スタッフの松村果奈、岡田寛司、飛松優歩、蛯谷朋実、和田隆の6名がそれぞれの視点から各作品の見どころやポイントなどを紹介します。

第1回サステナブル未来映画祭
第1回サステナブル未来映画祭

「サステナブル未来映画祭」は、“「映画」を通して、世界を知る。そして未来を想い、行動する”をテーマに、環境問題や社会課題をモチーフにした作品を取り上げる新しい映画祭です。「映画」の持つ力を通して、子どもたちの豊かな未来のために、大人たちの行動で紡いでいく機会を作ろうというもので、第1回は次の8作品を配信します。作品ごとにチケットの購入が可能で、PCやスマートフォンで鑑賞できます。※作品を視聴するには「シネマ映画.com」の会員登録が必要です。

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グレタ ひとりぼっちの挑戦

(2020年製作/101分/G/スウェーデン)

スウェーデンの若き環境活動家グレタ・トゥーンベリの素顔に迫ったドキュメンタリーです。気候問題に関する専門的知識と揺るぎない覚悟を持つ彼女が、国連総長アントニオ・グテーレスやフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ローマ教皇ら世界のリーダーたちと議論を重ねる姿を捉えると同時に、世界的に注目を集める1年以上も前から彼女に密着。動物たちと戯れるリラックスした姿や、自身のアスペルガーの症状について冷静に分析する様子、重圧と向き合い葛藤する姿、そして彼女の行動を支える家族の姿も映し出します。

▼駒井編集長

映画の題名は「グレタ ひとりぼっちの挑戦」です。この映画を見ると、本当にグレタちゃんはひとりぼっちなんだと痛感します。有名になってしまった今、彼女が行くところには、もれなく人だかりができます。スピーチを行えば大歓声。だけど、心は決してオープンじゃない。さながら「孤独なロックスター」といった趣き。もちろん、彼女の両親はグレタを最大限サポートしていますし、学校も協力的だということは言及されている。

しかし彼女が孤独なのは一目瞭然で、見る者の胸を締めつけます。その孤独感の原因は、ひとえに「世界の首脳陣が、環境問題に全然真剣に取り組んでいないから」ということにつきます。大人は、言ってることとやってることが全然違う。グレタは、政治家の本質を見抜いています。フランスのマクロン大統領も、ローマ教皇も、グレタに会いたがった。彼女は、自分が政治利用されているのを知っています。それでも、世界に自分の主張を伝えるために政治利用を受け入れています。そんな孤独な戦いの実態を知ると、ますます彼女を応援したくなります。

「グレタ ひとりぼっちの挑戦」
「グレタ ひとりぼっちの挑戦」

「マイクロプラスチック・ストーリー ぼくらが作る2050年」

(2019年製作/76分/アメリカ)

プラスチックごみによる環境汚染問題を学んだ、ニューヨーク・ブルックリンの小学5年生たちを追ったドキュメンタリーです。彼らならではの視点で問題の根幹を問いただし、解決に向かってアクションを広げて行くまでの2年間を追っています。日本語吹替版では、環境問題の解決に貢献したいという全国の小中学生のほか、現代美術家の日比野克彦らが吹替を担当しています。

和田隆

プラスチックごみによる環境汚染問題は深刻化していますが、解決に向かってのアクションは世界中で広まっています。この問題を学び、解決に向けて取り組むニューヨークのブルックリンの小学5年生たちの目の輝きと姿を見ると、30年後には今よりも改善されているかもしれないと希望を抱くことができるでしょう。学校の授業で与えられた課題がきっかけかもしれませんが、子どもたちは非常に能動的、積極的で、彼らならではの視点でこの問題を大人や社会、世界に問いただしていくまでの2年間がテンポよく記録されています。

やはりアメリカのニューヨークの子どもたちは問題意識をしっかりと持っていて、それを自分の言葉と行動で示せるんだなと感心させられると同時に、日本の小学生たちは同じような問題意識を持ち、アクションを起こせるのかなと、少しネガティブな見方をしてしまいました。でもそれは余計な心配で、本作の日本語吹替版では、この環境問題の解決に貢献したいという全国の小中学生たちが吹替を担当しています。さらに、現代美術家の日比野克彦さんらも吹替に参加することで、この問題と海外の子どもたちの取り組みをアピールし、問題解決のためのアクションを広めていこうとしています。

「マイクロプラスチック・ストーリー ぼくらが作る2050年」
「マイクロプラスチック・ストーリー ぼくらが作る2050年」

「気候戦士 クライメート・ウォーリアーズ」

(2018年製作/86分/ドイツ)

温暖化などの地球の環境汚染が叫ばれる中、気候変動を止めるための活動を展開する気候活動家たちのさまざま挑戦に密着したドキュメンタリーです。100%再生可能エネルギー実現を目指す彼らの姿を追いながら、人類が直面している問題に迫っていきます。監督は「第4の革命 エネルギー・デモクラシー」のカール=A・フェヒナー

▼駒井編集長

この映画には、5歳の頃から環境問題に取り組んできた少年や、ワラを再利用して発電できるプラントを実用化させた発明家など、色々な気候活動家が登場します。サステナブル案件の映画を、「グレタ以前」「グレタ以降」に分けるならば、「グレタ以前」の案件でしょう。15歳で彗星のごとく登場し、痛烈な言葉で世界の首脳をDisって大歓声を浴びるグレタは、ロックスターそのものですが、彼女の周辺や違うステージで、地道に活動を続ける活動家がたくさんいるという事実が描かれています。

そして、トランプ前大統領がいかにデタラメだったのか再確認できます。また、シュワルツェネッガー元カリフォルニア州知事が、かなりマトモな主張をしていて驚きます。個人的にもっとも印象的だったのは「ドイツが2022年までにすべての原発を停止する」という政策を、改めて認識できたことですね。期限が、いよいよあと1年に迫りました。ドイツの2022年に大注目です。

「気候戦士 クライメート・ウォーリアーズ」
「気候戦士 クライメート・ウォーリアーズ」

ザ・ニュー・ブリード

(2020年製作/80分/アメリカ)

アメリカで勢い盛んなミレニアル世代の社会起業家たちを捉えたドキュメンタリーです。社会起業家ムーブメントを多角的な視点で浮き彫りにしながら、コメディアン、ミュージシャン、学者らも登場し、植民地主義、不平等、貧困の歴史などを分かりやすい方法で伝えています。

▼松村果奈

「新種」「新人類」などを意味する「ザ・ニュー・ブリード」。社会課題をビジネスで解決するミレニアル世代の“社会起業家”にフォーカスし、起業のきっかけからその歩みを紹介するとともに、新自由主義の弊害、世界的に問題視されている所得と富の不均衡など経済トピックも視覚的にわかりやすく解説される本作は、そもそも社会起業家って何? サステナブルとか、意識高い人向けじゃないの? 自分はエリートじゃないし……なんて、こういったテーマに及び腰になっている人にこそ見てほしい。

もともと彼らは、ファッションやサーフィンが好きな普通の若者。好きなことの延長線上に、消費という行動、そして私たちの社会があり、それを支える人間と地球の資源の重要さに気づいたゆえの取り組みなのです。鑑賞後は、自分の行動が未来に繋がることがわかり、自ずと小さなことでも地球と社会に良いことをしたくなるはず。映画の収益は恵まれない環境にある若い映画製作者のために寄付されるという、映画を見るだけで社会貢献もできる仕組みも◎。

「ザ・ニュー・ブリード」
「ザ・ニュー・ブリード」

「0円キッチン」

(2015年製作/81分/オーストリア)

世界で生産される食料の3分の1が廃棄されている現実を受け、キッチン付き廃油カーで廃棄食材料理を届けながらヨーロッパをめぐる旅を追ったドキュメンタリーです。各地で廃棄予定の食物を使った料理をふるまう、ジャーナリストで「食料救出人」のダービドと人々とのコミュニケーションから、現在抱えている食の問題、そして未来を考えていきます。

▼飛松優歩

「世界の食糧の3分の1が捨てられている」――ショッキングな信じがたいデータに、筆者も最初は「これは現実なのか」と懐疑的でした。しかし、“食料救出人”ダービドお手製のゴミ箱でできたキッチンカーが走り出すと、目の前に広がるのは、期限切れの食べ物が眠る各家庭の冷蔵庫や、大量の料理を廃棄する食堂など、どこか身に覚えのある光景。食糧を大量に生産し大量に廃棄する社会の構造から、物や情報や選択肢に溢れためまぐるしい生活のなかで「食へのありがたみ」を忘れた人間の姿が浮かび上がります。ダービドに協力するシェフ、トム・リーダラーの「昔はもっと工夫して食べきってた。忙しい現代人は知恵を失ったんだよ」という鋭い指摘に、胸の痛みを覚える人も多いはず。

全員がほんの少し行動や意識を変えれば、世界規模の問題も解決できるかもしれない。ダービドは「小さなことから始める」重要性を知っているからこそ、「嘆いていても始まりません」と、常に前向き。廃棄予定の食材をおいしくよみがえらせる驚きのアイディアや、さまざまな立場の人々の切実な思いを知り、自身の行動を振り返るきっかけになります。さらには「何でも食べてやろう!」という気概で、野草や昆虫の料理にチャレンジしたり、フードロス問題の解決策を考えているEUの食堂に突入し現状を調査したりと、次々と驚きの展開を見せるので、最後まで飽きずに見ることができます。また、ダービドが年間643万トンもの食糧が廃棄され、世界トップクラスの食品ロス大国である日本をめぐる「もったいないキッチン」も製作されているので、あわせて鑑賞してみてください。

「0円キッチン」
「0円キッチン」

「ダムネーション」

(2014年製作/87分/アメリカ)

無駄なダムを撤去し、川の自由を取り戻そうと活動を続けてきた者たちの姿を追ったドキュメンタリーです。アメリカ全土に建設された多くのダムでは期待されるほどの発電、灌漑(かんがい)、洪水防止の効果を得られておらず、維持には高いコストもかかっています。そんな負の側面ばかりのダムを撤去し、地球の血管とも言われる川を解放しようと活動する人々の挑戦を通して、新たな未来への可能性を見出していきます。アウトドア用品メーカー「パタゴニア」の創設者イボン・シュイナードが、製作に名を連ねています。

▼蛯谷朋実

ダムというと、比較的クリーンで地球に害が少ない水力発電をささえるもの、というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか? ではそれは本当に地球にやさしいエネルギーなのか、といえば川の生態系や周りの環境に与える影響は計り知れません。特に川を遡上して、産卵・繁殖するベニザケにとっては、戻るべき道を断たれることになります。そして川のそばにはそんなベニザケを食べて生きる動物、そして人間たちがおり、その生活をも変えてしまうのです。

ではなぜダムが作られてきたのか、といえば、貯水池として人々を潤し、発電所として人々を支え、大災害から人々を守ってきました。しかし何より大きいのは、公共政策として人々の雇用を生み出し、経済の発展に大いに貢献した面があります。しかし、この経済への貢献こそが、ダムの開発を乱発し、計画不十分な建設を進め、十分なダムの役割も果たすこともなく、生態系への悪影響を与えているダムを数多く生み出しました。この作品では、その無計画なダム開発から半世紀以上がたった今、改めてダムの必要性を問いかけ、また、ダムを取り壊した後に広がる景色を見せてくれます。まだ私たちには取り戻せる世界があるということを教えてくれます。

「ダムネーション」
「ダムネーション」

「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」

(2018年製作/91分/G/アメリカ)

自然を愛する夫婦が究極のオーガニック農場を作り上げるまでの8年間を追ったドキュメンタリーです。自然の厳しさに直面しながらも、命の誕生と終わりを身をもって学び、動物や植物たちとともに美しいオーガニック農場を作るために奮闘の日々が描かれます。映画製作者、テレビ番組の監督として25年の経歴を持つジョン・チェスターが、自身と妻、そして愛犬の姿をカメラに収めました。

和田隆

究極のオーガニック農場とはいったいどういうものなのか―。この作品は前知識がなくても、自然の厳しさと美しさ、動物と植物の命の尊さとともに、オーガニック農場を作る夫婦の奮闘の日々を追体験でき、自然愛に満ちています。まず、上空から見た農場の息を呑む美しさに圧倒されることでしょう。そして、この農場が荒地からどうやって作られていくのかが克明に、美しい映像とともに記録されていきます。大自然の厳しさに翻弄され、何度も挫けそうになりながらも、それぞれの生態系の役割、命のサイクルを生かしながら、8年間にもわたって究極の農場を作り上げていく姿は感動的です。

夢や理想だけでは実現できないけれど、殺処分寸前で保護した愛犬や、命をいただく動物たち、小さな昆虫の姿にも癒されながら、自然や環境と密接に関わり合うとはどういうことなのか、人生をいかに生きていくかを考え直すきっかけをくれます。そして、深刻化する地球の気候変動にいち早く対処していくことの大切さを教えてくれます。

「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」
「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」

「ブータン 山の教室」

(2019年製作/110分/G/ブータン)

ヒマラヤ山脈の標高4800メートルにある実在の村ルナナを舞台に、都会から来た若い教師と村の子どもたちの交流を描いたブータン映画です。本作が初メガホンとなるブータン出身のパオ・チョニン・ドルジ監督が、村人たちのシンプルながらも尊い暮らしを美しい映像で描き、本当の幸せとは何かを問いかけます。

▼岡田寛司

教職には未練なし。田舎より断然都会派。口を開けば不平不満で根性は皆無。主人公の教師・ウゲンって、実はこんな人物なんですよ。そんな彼が8日間のトレッキングでしか辿り着けない僻地に、問答無用でとばされる。大泉洋さんであれば、ぼやき節炸裂です。この設定があるので「マジメな映画かな?」という先入観を持っているとクスリとさせられてしまいますし、若干“嫌な奴”のウゲンがどう変わっていくのかも見どころ。

彼が過ごすルナナは実在の村ですが、これが本当に美しい。村を取り巻く自然、シンプルな生活、豊潤な文化……何より子どもたちの表情、佇まい、所作、その全てが尊い! 「勉強がしたい」という思いを抱えた彼らにとって、先生は「未来に触れられる存在」。この考え方が素晴らしくてですね……思わずハッとさせられてしまいました。ブータンは「世界一幸せな国」。そんな場所が舞台だからこそ「本当の幸せとは何か?」という問いかけが際立ってくる。「あー、見てよかった」。心からそう思えた、非常に愛おしい作品です。

「ブータン 山の教室」
「ブータン 山の教室」

気鋭の映画作家が、世界の社会課題や地球温暖化問題などに鋭く切り込み、人々に問いかける優れた作品ばかりです。上記の見どころやおすすめポイントを参考にしていただき、この機会に是非ご覧ください。

>>【第1回サステナブル未来映画祭はこちら!】

筆者紹介

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