コラム:若林ゆり 舞台.com - 第70回

2018年8月1日更新

若林ゆり 舞台.com

第70回:歌舞伎版「NARUTO−ナルト−」でライバルを演じる巳之助&隼人の挑戦!

歌舞伎は古い芸能だと思っていたら、大間違いだ。時代の流れに敏感に、古い伝統と新しい進化の両方を兼ね備えた日本文化として、歌舞伎界は日々、努力を重ねている。それが見事に奏功し、若い世代を「アッ!」と言わせたのが、大ヒット漫画「ONE PIECE」を歌舞伎化したスーパー歌舞伎II(セカンド)「ワンピース」だった。この作品の成功で、若い観客が急増したことは言うまでもないこと。そしていま、さらなる挑戦が始まった。今度は世界的な人気を誇る忍者アクション漫画「NARUTO−ナルト−」を、新作歌舞伎として上演するのだ。この歌舞伎版「NARUTO−ナルト−」で“うずまきナルト”を演じる坂東巳之助、“うちはサスケ”を演じる中村隼人に話を聞いた。

「NARUTO−ナルト−」は、落ちこぼれ忍者の“うずまきナルト”が逆境にめげず、修行や敵との戦いを通して成長する姿を描くバトルアクション。脚本と演出を手がけるG2は、ナルトと複雑な友情で結ばれたライバル“うちはサスケ”との関係性に焦点を当てて物語を構築。「世代的にドンピシャ」で、ともに少年時代から原作の愛読者だったという巳之助と隼人も、脚本の出来には大満足だ。

うずまきナルトを演じる坂東巳之助(右)と、うちはサスケを演じる中村隼人(左)
うずまきナルトを演じる坂東巳之助(右)と、うちはサスケを演じる中村隼人(左)

巳之助「全72巻分の長い物語を、見事にまとめてお芝居として面白く、まったく『NARUTO-ナルト-』を知らない人も、知っているという人も楽しめるように作ってもらったなぁ、と思いながら台本を読みました。寄り道をしてしまうと、時間的に収まらなくなっちゃうというのはわかっていましたし、本当にぎゅぎゅっと濃縮した台本だったので、不満はまったくなかったです。なにしろG2さんが『NARUTO-ナルト-』を読み込まれて、その物語の中からすくい取ったものをうまく脚本に収めてくださっているので、『ここは違うんじゃないか』ということもありませんでしたね」

隼人「僕も最初に脚本を読ませていただいたとき『ああ、こういう風に原作をまとめられるんだ!』と思いました。もちろん、原作ファンの方が見ると『このシーンもやってほしかったな』というところはあるかもしれないけれど、ナルトとサスケの人格形成や成長していく上での大事なところは外していないと感じました」

スーパー歌舞伎II「ワンピース」など、「自分たちでも驚くほど共演が多い」という巳之助と隼人。どうやら性格的にはずいぶんかけ離れているようで、そこもナルトとサスケを思わせる。しかしこの2人、キャラ的には演じる役とは逆で、どちらかと言えば巳之助は“陰”、隼人が“陽”らしい。原作を読み返して少年時代と感想は変わったか? という質問への答えが、それを物語って面白い。

(c)岸本斉史 スコット/集英社・『NARUTO-ナルト-』歌舞伎パートナー
(c)岸本斉史 スコット/集英社・『NARUTO-ナルト-』歌舞伎パートナー

隼人「読み直して印象はすごく変わりましたね。小さい頃は『ナルトとサスケ、すげえ立廻りやってるな』と思って読んでいたのが、いま読むと『この2人はこういう殴り合いでしかわかり合えなかったんだな』ということを感じたりします。ナルトは最初に大人たちから疎まれているところから始まって、そこから成長していく。僕らの日常にあるようなことや、政治的なことも含めていろいろな要素が詰まっている漫画なんだな、と気づきました。ただカッコいいバトルをしているだけじゃなくて、サスケのような根の深い闇を抱えている人物と、ナルトがどう接していくのか。人間の闇深いところや泥臭いところが、すごく表現されているんですよね」

巳之助「僕は漫画を一度読んだら忘れないタイプで、改めて今回読み直したりはしていません。僕は基本的に性根がおたくなので、ずっと昔からいま隼人が言ったような読み方しかできない子どもでした」

隼人「えー、さみしいー(笑)」

巳之助「だから自分のそういう読み方が『認識としてズレていなかったな』と思いながら稽古をしています。僕はどちらかというと闇寄りの人間なので(笑)。最初に『NARUTO-ナルト-』を歌舞伎にすると聞いたときも、これは『芝居にしがいがある』と思いました。『ONE PIECE』も大好きですが、やはりエンタテインメントな漫画ですよね。だから原作の魅力を取り込んだスーパー歌舞伎II『ワンピース』は、エンタテインメント全開な作品として生まれたわけです。一方で『NARUTO-ナルト-』は『人間の暗い闇の部分を描いているところも大きな魅力だな、そういう芝居にできるな』と思っていて、やはりそうなってきている。ハラハラしながら、そうした闇の部分も楽しめる作品になっていると思います」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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