コラム:若林ゆり 舞台.com - 第47回
2016年9月1日更新
第47回:スーパー娯楽時代劇「真田十勇士」で中村勘九郎と加藤和樹を支える男の友情!
お調子者のリーダー佐助と切れ者で色男の才蔵は、かつて忍びの仲間だった間柄。2人がもたらす“相棒”ものの楽しみが作品の大きな魅力になっているのだが、実際のところ、佐助と才蔵はどんな関係なのだろう?
加藤「決して全部がツーカーではないと思うんですよ。この2人はキャラクターが正反対ですし、どこかでお互いを認めているんだけど認めない、というか(笑)。すごく微妙な関係性だと思うんですよね。それでも、生まれ育った環境が同じというのもあって、どこか、底のいちばん深いところでつながっているんじゃないかな。『絶対、こいつは裏切らないヤツだ』という絶対的な信頼、そういうものが作れたらいいなと思います」
勘九郎「そうですね。でもなんだろうな、2人で事件を解決するというわけでもないですし、ヘンな関係性ですね。『大ッ嫌い、だけど、好き』みたいなね(笑)」
演じる勘九郎と加藤にも、お互いに対して「絶対に信頼が置ける」という確信がある。
勘九郎「初演をやって、映画をやったなかで培われたものがありますからね。仕事の上ではもちろんですけど、普段の和樹って本当にハートが素晴らしいんです。マメなんですよ。女の子にだけじゃなく、男子にもマメ(笑)。ごはん屋さんとかもちゃんとリサーチして、いろいろ計画を立てて(幹事役を)やってくれるし、『この人と恋愛したら楽なんだろうな』って、女子の心がわかっちゃうんですよ。あとは基本、変態なんで(笑)。それは僕が絶対的な信頼を置いているところですね」
それは、どういう種類の変態なんでしょう?
勘九郎「いや、役者にとって変態というのはほめ言葉ですから。あとはもう、いい風に取ってもらえればね(笑)」
加藤「好きなことにはとことん、っていう風に解釈していただければ(笑)」
なるほど。一方で、加藤にとっても座長の勘九郎は、「男が惚れる男」そのものなんだとか。
加藤「これだけ『この人のためにやろう』って思わせる人に、初めて会ったんですよ。もちろん『何やらされるんだろう』とか、そういう不安はいろいろあるにせよ、勘九郎さん自身にみんなへの愛がすごくある。人がすごく好きなんだろうな。ここまで思わせてくれる人ってなかなかいないんですよ。たとえば感謝の気持ちを言葉にして、ちゃんと伝える人。そこが僕は、人として素敵だなって。役柄もそうなんですけど、単純に『中村勘九郎って男についていきたい』『背中を追いたい』って思えるんです。勘九郎さんは、猿飛佐助そのまんまだと思いますね」
そういえば、佐助の当意即妙で軽妙洒脱な持ち味、周囲を引っかき回すお調子者なのに絶対憎めない愛嬌は、勘九郎の亡き父、中村勘三郎丈が得意とした役柄とも言えるのではないか。近ごろドキッとするほど似てきたが、受け継がれたものを本人も感じている?
勘九郎「そうですねえ……。まだまだですが、僕が父に勝ってるところが1つだけあって、それは父よりも体が動くってことなんです。そこだけは負けないのでがんばって動かないと(笑)。それと、父は芝居をいつも苦しんで楽しんでいましたので、そこはやんなきゃな、とは思いますね」
一方の加藤は、この舞台の初演以降、ミュージカル界で大ブレイク。「タイタニック」「1789 バスティーユの恋人たち」と大舞台での主演も務めただけに、歌う才蔵になる可能性があるかも?
勘九郎「それは歌わせたいでしょう、僕だけじゃなく、堤監督だってねえ」
加藤「いや、歌はいいですって(笑)。監督は僕が出たミュージカルを見に来てくれて『曲を足さなきゃ』とか言ってましたけど(笑)。でもこの3年間で、それなりに経験を積むことができたと思います。自分としては、役としてそこにいるときに、前はもっと構えていた部分があったんですけど、最近になってようやくちょっと落ち着いてきたかなという感覚があります。だから今回も、どれだけ自然体で才蔵としていられるかっていうところは楽しみですね」
加藤にはコメディの印象があまりないのだが、笑い・アクションともに文字通りの挑戦となるだろう。
勘九郎「彼は基本、オモシロ人間ですよ(笑)。暗い役が多いからって、みんな勘違いしてるんです。たとえば桃李に無茶振りすると、できない、とか、苦しんでる姿が面白かったりするんです。でも、和樹は僕が振ったら絶対に返してくるから。それくらいオモシロさんなんです。でもどこまでもやっちゃう人だから、“ダブル佐助”になる可能性はあるね(笑)。そこがいちばんの恐怖です!」
加藤「そこを才蔵としてどううまくやるか、ですね。キャラクターありきですから。アクションにしても、新たなことに挑戦できるというのはありがたいですし、やるからには徹底してやりたいなと。桃李がやったものを、いい意味で超えなきゃいけないと思うし、彼が作ってきた才蔵のよさは殺してはダメだと思うんですよね。でも、やっぱり彼に嫉妬はさせたいな(笑)。『俺がやりたかったな』って思わせたいです」
2人から伝わるのは初演の舞台を超えよう、映画とはまた違った面白さを追求しようという熱意と誠実さ、その思いが結ぶ絆だ。これはきっと、すごい結果を生むに違いない。
勘九郎「これだけのビッグ・プロジェクトはなかなかないことですし、楽しむしかないですね。惜しみなく出し尽くさないと、このプロジェクトの大きさに追いつけないと思うんですよ。この舞台を見てくださる方は、必ず映画も見たくなると思います!」
「真田十勇士」は9月11日~10月3日 新国立劇場 中劇場で、10月8~10日 KAAT神奈川芸術劇場で、10月14~23日 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで上演される。詳しい情報は公式サイトへ。
http://sanadajuyushi.jp
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka