コラム:若林ゆり 舞台.com - 第31回
2015年7月24日更新
第31回:ダメよ~ダメダメだけじゃない! 日本エレキテル連合が2度目の単独公演「死電区間」で停電から復活!
いやしかし、橋本のキャラクター創造力はすさまじい。男でも女でも、ギャルでもジジイでも、まったく違う声色で、まるで憑依したかのように豹変! キャラに魂を吹き込む橋本の才能が、エレキテルのコントを面白くしていることは間違いないのだ。中野も「うらやましい」と言うほど、どんなキャラにもなれる橋本だが、中野が書いてきたキャラクターやセリフで『これはヤダな~』、『ダメよ~ダメダメ』というのはなかったのか?
橋本「それはなかったんですけど、喉仏は無理でしたね。男性役をするときに、喉仏を作ってくれよーって言われたんですけど。男性ホルモンを打つとかっていうのはさすがに断りました(笑)」
ホルモン注射はしないとしても、「白塗りメイクのとき邪魔だから」と眉毛は平気で剃っちゃっている橋本。中野によれば「マリリン・モンローの写真集を買ってきて、朱美ちゃんのポーズの練習」をしているんだとか。朱美ちゃんキャラも、立ち止まってはいない。
中野「先日、朱美ちゃんの衣装と同じ生地を見つけてもらいまして。日暮里の生地問屋さんに行って、ハイレグとマーメイドドレスと、浴衣を作ってもらいました。だからまた新たな展開もあると思います。『死電区間』では、朱美ちゃんボンデージに挑戦しますよ。いや、それ以上。お尻も見せます!(笑)」
「死電区間」というタイトルには、自分たちの現在を客観的に見ての、さまざまな思いが込められている。
中野「死電区間っていう言葉は、早くタイトルを出せって言われて、電気にまつわる言葉をいろいろ調べていたときに出てきたんです。英語にしたら“DEAD SECTION”。JRの新幹線なんかで西と東が入れ替わるとき、一瞬、停電するんですね。そこのことを言うんです。これが、ちょうどいまの私たちみたいだなぁって思って。去年、朱美ちゃんと細貝さんがいろんな人に知ってもらえて、すごいことになった。で、次に何かやらなきゃいけない、その狭間の死んでいる状態にあるのかなと。それで今回は、人が生きている世界と死んでから行く世界の中間点、狭間の世界を舞台にしているんですね。これから生きるか死ぬか、今後を左右する私たちのいまという瞬間をこの舞台で表現しようと思って。生きるか死ぬかという関所に、いろんなキャラクターがやってくるんです。セットも見ものですよ」
朱美ちゃんと細貝さんは、大ブレイクすることによって本来の意図とはかけ離れた形に姿を変えていった。本来は18禁ネタのダッチワイフであり、「空気人形」のようなもの悲しさや孤独感、シュールな気持ち悪さも満載なネタだったのに。勝手に歪められ、そればかりを求められ、勝手に飽きられた現状には複雑な思いもあるだろう。
中野「しかたがないって模範解答をしてますが、正直、終わったとか言ってるヤツ絶対許さねえって思ってます(笑)。だから朱美ちゃんは最初に世の中に出した後の、衝撃をもって受け止められたときの反応がいちばん楽しかった。その後は勝手に作られたものなので、興味が持てなくなったときがありましたね」
橋本「反応が、“気持ち悪い”から“かわいい”に変わったんです。ヘンな感じでした。最初のころは、反応が悲鳴だったんですよ(笑)」
繰り返すが、日本エレキテル連合の面白いキャラは朱美ちゃん&細貝さんだけじゃない。なかでも“感パラ”で絶大な人気を誇っているのが、橋本扮する謎の美男、三好だ。見世物小屋の呼び物として娯楽のない町を回っている彼の世界に特化した一夜限りのイベント「サンニスキーの夜」では、観客を熱狂の渦に巻き込んだ。
橋本「客席のみなさんが『みよしーッ!』とか叫んでくださって、すごい現象でした。客席が『何やってんだこいつら』ってなったら盛り上がらないところでしたけど。三好の祭壇では『三好、死んじゃったの!?』って泣き出す人もいたらしいんです」
中野「『三好、抱いてー!』とか『指に1億!』とかキャーキャー言ってくれてね。私たちはオークションが始まるなんて想像もしていなかったんです。お客さんが作ってくれた作品でした」
この手応えが、「死電区間」でも生きるはず。“感パラ”などでお馴染みのキャラクターたちが、生死の狭間で客席にスペシャルな衝撃を与えてくれるに違いない。
橋本「お客さんたちも劇場に入って、自分たちも死電区間に入ったという、そういう気持ちで見てもらえたら」
中野「お馴染みのキャラが出てくるんですけど、どういう容貌になっているかはわからないですよ。生きているとも言えないし死体でもない、その歪んだ空間でのことですから。ここではお客さんも演者の1人。みなさんには『私も女優よ』くらいの気持ちで楽しんでいただけたらうれしいです」
「死電区間」は7月24~26日、草月ホールで上演。以後、大阪、愛知、岡山、福岡、宮城、石川、新潟で公演。
詳しい情報は特設ページへ。
http://www.titan-net.co.jp/live/elekitel_live.php
感電パラレルはこちら。
https://www.YouTube.com/channel/UC9kkLTFR6fS3uJB75yx0idg
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka