コラム:若林ゆり 舞台.com - 第2回

2014年3月6日更新

若林ゆり 舞台.com

第2回:100周年の宝塚がフランスとのコラボで贈る超大作「眠らない男・ナポレオン」が圧倒的!

今年、宝塚歌劇団は100周年の記念イヤー。その幕開けを飾った作品が、星組による「眠らない男・ナポレオン ー愛と栄光の涯にー」だ。本拠地の宝塚大劇場公演を経て、ただいま東京宝塚劇場で絶賛公演中。これが、いろいろな意味ですごいのである!

何がすごいって、まずタイトル前の部分に注目してほしい。誇らしく輝く文字は「ル・スペクタクル・ミュージカル」! 「ル・ビッグ・マックかっ!」とツッコミを入れたあなたは「パルプ・フィクション」の見過ぎ。なぜここにフランス語の定冠詞がついているかといえば、これが日仏共同制作だから。つまり宝塚の座付き作・演出家である小池修一郎が、フランスが生んだ世界的大ヒットミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(宝塚でも数回にわたり上演)の作曲家、ジェラール・プレスギュルビックに曲を依頼してコラボレーション。宝塚から世界に発信してやろうという意気ごみでつくられたオリジナル大作というわけだ。

描かれるのはタイトルの通り、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの生涯。世界一映画に登場した歴史上の人物ともいわれるこの男は、実は宝塚でも85年に「愛あれば命は永遠に ーナポレオンとジョセフィーヌー」という別作品で上演されている。宝塚は本当に、この時代のフランスが大好きなんだなあ。

幕が上がると、そこはナポレオンが逝去してから10年後のウィーン。かつてナポレオンの盟友で副官だったマルモンが、父に憧れるナポレオンII世に請われるまま、語り始める。そこに登場する若きナポレオンは、理想と野望のため眠らずに勉強する「夢みる夢男くん」だ。ここ、演出がまさかの3D。机に座って書き物をしながら歌うナポレオンが、机ごとクレーンでグイーンと飛び出してくる。おお。

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ここから舞台はナポレオンの生涯を、猛スピードの駆け足で追いかけていく。宝塚であるからしてジョセフィーヌとの愛がメインにはなるのだが、エピソードが意外なほどてんこ盛り。たたみかけるように次から次へと場面が転換していくため、情緒にひたる間がないのだ。転調が美しい曲はそれぞれエモーショナルなのに、噛みしめる余裕がないのはちょっともったいない。

これはおそらく、だいたいのストーリーにあわせた曲が先に仕上がってきて、そこに脚本と歌詞をはめこんでいくというつくり方を採ったせいだろう。曲があふれて収めるのに必死、という感じがする。しかし、大曲を使った舞台の展開と演出は、そりゃあもう圧倒的! 回転盆やクレーン、映像背景など、もてる舞台機構のすべてをフル稼働。舞台の上に大人数をのせ、ドラマチックなうねりを生み出す演出には目を見張るばかりだ。衣装の華麗さも尋常じゃない。軍服は肖像画をモデルにしているから、たとえば最近だと「皇帝と公爵」でメルビル・プポー扮するマッセナ元帥が着ていたのともよく似ているのだが、そのカッコよさはどんな映画スターも勝てないレベル。「カッコいい」を売る宝塚にとって、現代のファッションショーをも賑わせるファッショナブルな軍服は最強の武器なのだ。女役のドレスももちろんため息が出るほどゴージャスで、2幕の始め、有名な絵をそのままリアル化した戴冠式の場面などは圧巻のひとこと。これをル・スペクタクルといわずして何といおう!

ナポレオンを演じる柚希礼音
ナポレオンを演じる柚希礼音

しかし、曲やセットや衣装以上にすごいのは、ナポレオンを演じる柚希礼音(ゆずき れおん)。この人はもともとダイナミックなダンサーなのだが、ハスキーな低音が響く歌も聴かせれば、演技もいける。存在にも演技にも、ただならぬ大きさを感じさせるスターなのだ。恋も戦争も思い込んだら一直線、直情型で即決即断のナポレオンは柚希にかかれば、男らしいが荒鷲というより大型犬ようなかわいらしさももつ情熱家。だからこそ、2幕の凋落、そして最後の真っ直ぐなまなざしに胸を締めつけられる。柚希の説得力なくして、この作品の成功はあり得なかったと心から思う。とにかく「宝塚が100年積み上げた技の総力を結集」感満載のステージ、早朝から当日券窓口に並んででも、見る価値あり!

「眠らない男・ナポレオン」は3月29日まで東京宝塚劇場にて公演中。
詳しい情報は公式ホームページ http://kageki.hankyu.co.jp/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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