サダム 野望の帝国 ミニシリーズ : 特集

 サダム・フセインといえば、もちろん悪名高きイラクの元大統領である。2006年に「人道に対する罪」で死刑に処されたものの、その実像はほとんど知られていない。かの独裁者は、いかにして帝国を築き上げたのか? 近隣国からアメリカにまで戦争をふっかけておきながら、どうして25年以上ものあいだ権力の座に留まることができたのか? 彼を突き動かしていたものは果たして何だったのか?

 「サダム 野望の帝国」は、謎に包まれたサダム・フセインの真実を映像化した意欲作である。

 「サダム 野望の帝国」の製作陣は、アメリカのHBOとイギリスのBBCによる強力タッグだ。HBOといえば、「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」から「セックス・アンド・ザ・シティ」に至るまで、野心的なドラマ作りでアメリカTV界を牽引する新興局。一方、イギリスのBBCといえば、「ドクター・フー」から「高慢と偏見」に至るまで質の高いドラマで定評のある名門TV局だ。「バンド・オブ・ブラザース」や「ROME(ローマ)」などの歴史大作を共同製作した2大TV局が、再びタッグを組んだ歴史ドラマが「サダム 野望の帝国」である。

 湾岸戦争においても、イラク戦争においても、報道されるのは常に欧米の立場からだった。だからこそ、イラク側、しかも、支配者であるサダム・フセインとそのファミリーの立場から描かれる「サダム 野望の帝国」は非常に新鮮だ。イラクはなぜクウェートに侵攻したのか? 米軍がイラクに侵攻したあと、フセインはどういう逃亡生活を送っていたのか? 本作は、政敵をつぎつぎに処刑する場面など、史実に基づいた衝撃の事実を暴いていく。

 しかも、歴史をなぞっただけの安直な再現ドラマではなく、重厚でスリリングな歴史巨編として描かれているのがうれしい。サダム・フセインを熱演するイガル・ノールを筆頭に、「砂と霧の家」でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたショーレ・アグダシュルー、ハリウッド映画やテレビでひっぱりだこのサイード・ダグマウイ(「バンテージ・ポイント」「LOST」)など、演技派の俳優陣がリアリティを与えている。

 本作で描かれるのは、野心旺盛で好戦的なサダム・フセインが権力を掌握してからの二十数年間だ。政敵をつぎつぎ処刑する一方で、血縁を重要ポストに登用するフセインの姿は、大統領というよりも、マフィアのドンに近い。実際、「ゴッドファーザー」のマイケル・コルレオーネや「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」のトニー・ソプラノとの共通点も多いのだが、フセインが傑出しているのはその冷酷さだ。敵に弱みを見せないためには、親友までも射殺するほど。そんな冷徹なフセインと彼の家族を中心に展開する本作は、壮大な犯罪ドラマとしての魅力も備えている。

 英インディペンデント紙は「スカッド・ミサイル付きの『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』」と賞賛。「信じられないほど野心的でありながら、見事に成功している」(英ガーディアン誌)、「独裁政治のダーティーな側面に、家族の集まりや兄弟間のライバル関係、夫婦不和といったテーマをブレンドした壮大な物語」(米ニューヨーク・タイムズ紙)と、英米のメディアも絶賛している。

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