【「ゴッドランド GODLAND」評論】火と氷の国で揺らぐ信仰。オスカーの最終候補に残った異色のアイスランド映画

2024年3月31日 20:00


「ゴッドランド GODLAND」
「ゴッドランド GODLAND」

インターステラー」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」などのロケ地として知られるアイスランド。最近では「ノースマン 導かれし復讐者」「LAMB ラム」といった映画の製作でも知られているが、そこにまた一つ、優れた映像を誇る作品が誕生した。監督はこの3作目の長編が同国の代表に選出され、アカデミー賞の国際長編映画部門で最終選考にまで残ったフリーヌル・パルマソン。出演はエリオット・クロセット・ホーブイングバール・E・シーグルズソンビクトリア・カルメン・ゾンネイーダ・メッキン・フリンスドッティル(監督の実娘)。

1870年代のアイスランド。キリスト教布教のため宗主国デンマークから派遣された野心的な牧師ルーカス(ホーブ)は、教会建設のため辺境の村を目指す。頑迷なガイドのラグナル(シーグルズソン)らを従え、想像を超える厳しい旅の末に到着した村では、デンマーク移民のカールと娘のアンナ(ゾンネ)とイーダ(フリンスドッティル)など、一部の住民が教会に関心を寄せる程度だった。使命を見失ったルーカスは次第に孤立を深めていく。

冒頭からデンマークとアイスランドそれぞれの言語で題名が現れる。共に「厳しい土地」の意で、英題「GODLAND」は詩人マッティアス・ヨクムソンが書いたアイスランド国歌「讃美歌」の一節から採られているそうだ。

「ゴッドランド GODLAND」
「ゴッドランド GODLAND」

映画では写真機材が印象的に使用される。ルーカスが現地に持ち込んだものは鶏卵写真という、卵の白身を用いた印画紙を作り、太陽光で感光させる19世紀の技術である。保存の仕方によっては百年後も劣化しないと言われ、当時のこの写真が発見された、という設定で物語は始まる。映画自体も35mmフィルムを採用、四隅が丸い1:1.33のスタンダードサイズにトリミングされ、作中のルーカスが写した画像とイメージが重なる。

固定されたカメラ、厳格な構図で彼が切り取った大地や人々は、美しくもどこか冷たく静かで距離を感じさせる。それは植民地アイスランドにキリスト教という権威を押し付けるデンマークに対する、現地の人々の無言の抵抗のようにも見える。

逆にカメラがアップで捉えるものは、澄んだ水が滲み出る湿地帯や、食卓を奇妙に這い回る1匹の小虫、火山帯で流れ出す溶岩といったスピリチュアルな日常風景。アイスランドを独立した生命体のように描き、大自然とリンクした固有の神話世界があることを、来訪者ルーカスに提示する。その存在に対して彼がどんな行動に出るのか、衝撃は突然にやってくる。

なお、荒野で白骨化する馬は監督の父の所有で、連続する死骸ショットは4mの足場を組み2年の歳月が費やされた。

(本田敬)

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