アニメーションの“幅と奥行き”を楽しんでほしい 藤津亮太が語る、東京国際映画祭「アニメ部門」変化の経緯&海外作品全解説

2023年10月12日 22:00


10月14日午後1時からチケット販売がスタート
10月14日午後1時からチケット販売がスタート

10月23日に開幕する「第36回東京国際映画祭(TIFF)」では、昨年までの「ジャパニーズ・アニメーション部門」として展開されていたアニメ部門が、コンセプトを新たに「アニメーション部門」として再スタートをきる。ラインナップに海外アニメが加わったところが大きな違いだ。「ビジョンの交差点」と題して、海外アニメ映画の話題作、国内アニメ映画の最新作、計9作品を上映。レトロスペクティブ(回顧上映)では「海外映画祭と監督」というテーマで国内アニメ映画3作品がとりあげられる。さらに、上映とリンクしたシンポジウムも開催される。

プログラミング・アドバイザーとして企画に携わって今年で4年目になる藤津亮太氏に、アニメ部門のコンセプトが新しくなった経緯、海外作品を中心に上映作品の選択理由と見どころを聞いた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)

――ラインナップ発表会で藤津さんは、昨年までは「東京から」で、今年からは「東京で」になるとアニメ部門の変化を説明されました。なぜ今回から海外作品も加えられることになったのでしょうか。

藤津:経緯としてはシンプルで、プログラミング・ディレクターの市山(尚三)さんから昨年、「来年、海外のものを入れるのはどう思いますか」と打診をいただいたんです。で、僕はその場で「ありだと思います」と即答したんですね。

というのも、2020年から22年にかけてプログラミング・アドバイザーを3回やってきて、特撮作品の取り扱いがひとつ悩みどころだったんです。特撮というものが何を指すかが難しくて、今はビジュアルエフェクトを使っていない実写映画ってほとんどないわけですが、それらは特撮映画とは言われません。ビジュアルエフェクトが使われていることに加え、何かしらのキャラクター性があるものが特撮作品だとされていて、それらは主にテレビ番組として展開されています。映画祭の企画として、その点も気にかかっていました。

そういう背景がある中で、特撮作品として、有名キャラクターである「ウルトラセブン」「仮面ライダー」「スーパー戦隊シリーズ」をやることができました。次の候補も考えられないことはなかったですが、今後もずっとやっていけるのかみたいな課題があったときに、これまでとは部門のやり方を変えて、海外のアニメーション作品をいれるというのは、ひとつありだなと思ったんです。

もうひとつ、これまでのジャパーニーズ・アニメーション部門の感想を聞いていると、東京国際映画祭は、実写ではいろいろなコーナーを立てて海外作品をかけているのに、アニメ部門は国内作品だけでまとめているのはどうなのかという声もあったわけです。映画祭のなかの収まりのよさというか、一体感みたいなものを考えたとき、アニメ部門にも海外作品があるのはむしろ自然だし、そちらの方向に切りかえてコンセプトを立てることも不可能ではない。

アニメ部門はもともとコンペティションを行う部門ではありませんから、国内・海外の話題作をきっちり選んで、ラインナップのなかに意味をつけられれば、かたちは変われど、ちゃんとした部門になるなと考えたんです。――と、ここまでお話したようなことが、市山さんから打診をうけた瞬間に見通しがたったので即答できたわけで、あとは具体的に良い作品がちゃんと決まるといいなと思いました。

――特集上映とシンポジウムをのぞく上映作品は、海外5作品、国内4作品という割合です。

藤津:最初、海外は4作品の予定だったのですが、無理を言って5作品に増やさせてもらいました。上映のコマ数はかぎられていて、海外作品を増やすと予算もかかるので、事務局の方には大変申し訳なかったのですけれど。というのも、僕としては海外5、国内4ぐらいのほうが拮抗している感じがでるというか、海外4、国内5だと、せっかく海外作品をやることになったのに、なんだか結局付けたしのように見えてしまうのではないかと思いまして、1本増やしたのです。

――なるほど。海外作品のほうをあえて多くすることで、海外作品を新たに加えることをアピールする意図があったわけですね。

藤津:今年のアニメ部門は海外作品をやるんですよと、はっきり打ちだしたいなと思ったんです。

――海外作品をラインナップに加える際、「新千歳空港国際アニメーション映画祭」や「新潟国際アニメーション映画祭」など、海外アニメを上映する他の映画祭とどう差別化するかなども意識されたのではないかと思います。

藤津:そうですね……。意識せざるをえませんし、関わっている方々はおおむね知り合いではありますが、だからこそ、いい意味での緊張感が発生しているという認識がまずあります。そのうえでアニメーション部門は、コンペを行う新千歳や新潟、「TAAF(東京アニメアワードフェスティバル)」とは大きく違うというふうに認識をしています。

東京国際映画祭が、実写の海外作品や国内作品が上映されているなか、アニメーション部門はその中の一部門として、ラインナップ全体で文脈を発生させ、シンポジウムと一緒に楽しんでもらうのが目指しているところです。そういう意味では、「皆さん、美味しいものをそろえましたよ」という感じで、シンプルに楽しんでもらえるようなものをというスタンスでいます。世界で長編アニメーションが次々と作られる今、複数の催しがあることが、ファンの裾野を広げていくことにつながるのではないかと期待しています。

――お話しづらいことをありがとうございます。5つの海外作品について、選んだポイントと見どころを聞かせてください。

藤津:中国の作品「アートカレッジ1994」は、よくいわれる“実写でやったらいいのに”と言われるような題材をアニメで描いている青春もので、そのアプローチは、日本のアニメーション作品と問題意識やセンスが近いなと思ったんです。リウ・ジエン監督は、犯罪をあつかった前作「ハブ ア ナイス デイ」も面白かったですし、「アートカレッジ1994」は日本のアニメと並べて見てもらうと面白いんじゃないかと思って選びました。

深海レストラン」も中国の作品で、こちらは3DCG作品です。ティエン・シャオポン監督の前作「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」(2018年日本公開)はアクションが素晴らしかったのですが、今回はファンタジーで、類似作品をあげるとしたら「千と千尋の神隠し」になると思います。

――そうなのですか。

藤津:「千と千尋」からインスパイアをうけたのではないかと思うシーンもあるのですが、そういうところだけでなく、ファンタジー世界の面白さやにぎやかさみたいなものが、とても魅力的に描かれています。中国作品が2つになってしまうなと思ったのですが、「アートカレッジ1994」はリアルなテイストのドラマを手描きで、「深海レストラン」はファンタジー世界を3DCGでとアプローチがまったく違う作品なので、これはありだなと思ったという感じですね。

「リンダはチキンがたべたい!」
「リンダはチキンがたべたい!」

リンダはチキンがたべたい!」は、今年の「アヌシー国際アニメーション映画祭」で長編部門のクリスタル賞を受賞したフランスの作品です。どうしてもチキンが食べたいリンダとお母さんが、街じゅうがストライキの日に鶏を探すという、タイトル通りのストーリーですね。

監督のひとりであるセバスチャン・ローデンバックさんの前作「大人のためのグリム童話 手をなくした少女」(2018年日本公開)は、寓話的なところのある作品でしたが、「リンダはチキンがたべたい!」は日本のアニメも得意としている“今の社会と自分たち”をテーマにしていて、社会の出来事と主人公たちの個人的な出来事が交錯しながら描かれています。その部分が、日本の観客にとって面白いのではないかと思ったんです。もちろん、アニメーションとしての出来ばえがすごく良いというのが大前提ではありますが、日本のアニメと並べて見るとそうした面白さが発生するのではないかと考えました。

トニーとシェリーと魔法の光」は、チェコ・スロバキア・ハンガリーの合作によるトップモーションアニメです。この作品は、日本の作品と比べてどうこうというより、児童文学の延長線上にある、アニメーションらしいど真ん中のアニメーションで、ストップアニメーションとしてもとても魅力的な作品です。

主人公のトニーは体が光るという体質をもっていて、これは言葉だけで聞くとちょっと飲みこみにくい設定かもしれませんが、立体アニメーションの表現だからこそ説得力が感じられるものになっています。お父さんたちはトニーのことを心配して、いつもは彼にフードを被らせ、外にでるときはすぐ呼び戻せるよう、ハーネスのように家から外までのびるロープをつけさせています。「エヴァ」のアンビリカルケーブルみたいなイメージというと伝わりやすいかもしれません(笑)

――たしかに分かりやすいです(笑)

藤津:そんなトニーのもとに引っ越してきた女の子がいて、彼女もまたちょっと不思議なところのある子なんです。彼女も母親との関係に問題を抱えている。そんな、親に支配されている感じのある子どもたちが、アパートに出没する闇の塊の秘密を解いていくというストーリーです。

スペインとフランスの合作「ロボット・ドリームズ」は、今年の「アヌシー国際アニメーション映画祭」のコントルシャン部門で最優秀賞を受賞した、セリフなしの101分の作品です。

ニューヨークに住む擬人化されたひとりぼっちの犬が、友達としてロボットを購入して仲良くなるのですが、あることをきっかけにロボットが動かなくなってしまい、家に連れて帰ってしまうことができなくなります。人生のささやかな幸福と悲しさのようなものがセリフなしで描かれ、クライマックスでかかる音楽の使い方も上手いです。

――セリフなしで101分の作品だと、見るのにちょっとハードルが高そうです。

藤津:かわいらしい絵柄と、ギャグとまで言いませんが動きで見せるところも多くて、楽しく見られると思いますよ。ただ見た目の印象とは違って、実はけっこう大人味の作品で、こういう絵柄で大人っぽい話をやるというのもアニメーションの魅力のひとつですので、ぜひ見ていただきたいです。

――国内作品の4作は、どのような基準で選ばれたのでしょうか。

藤津:アニメファンの方もよくご存じだと思いますから、ざっくばらんにお話すると、日本のアニメ映画は公開直前まで制作されていることが多いですよね。昨年までの3年間は、夏以降に公開されたものから映画祭の開催直前・直後ぐらいまでの作品を中心にお声がけしていたのですが、作品が完成していなくて難しいということがよくあったんです。それこそ、今年上映する「かがみの孤城」は昨年も打診していたのですが、制作中のため上映できなかった作品でした。こうした完成から公開までの時間が短いという点は、僕がプログラミング・アドバイザーとして関わるようになった当初からの課題でした。

今回は海外作品をこれまでより幅のある期間で選んでいますから、国内作品もそれにあわせて、去年の映画祭が終わってから最近のものまでというかたちで、ちょっと選択の枠を広げようということになりました。

――なるほど。

藤津:大きく言うと、海外のここ1、2年の面白い作品と、ここ1年で面白かった日本の長編アニメを両輪で見てもらおうというコンセプトになっています。また、国内作品については、できるだけ若手の監督の作品を紹介できたらとも考えました。日本のアニメーションはクリエイターの層が厚く、いろいろな作家がいるところがポイントだと思っていますので。と言いながら、「かがみの孤城」の原恵一監督は大ベテランで、「BLUE GIANT」の立川譲監督も若手というより中堅クラスの方ではありますが。

BLUE GIANT」「駒田蒸留所へようこそ」「かがみの孤城」の3作は、日本のアニメーションの特徴のひとつである思春期や青年期の悩みを描いた作品という文脈で選んでいます。「BLUE GIANT」と「駒田蒸留所へようこそ」は青年の悩みがストレートに扱われていて、「かがみの孤城」の主人公は中学生の女の子ですが、広い意味で「自分」というものをめぐる、同種のテーマが描かれていると思っています。

北極百貨店のコンシェルジュさん」は、アニメーターとしても知られる板津匡覧さんが監督なだけあって、アニメーションの動きによって原作漫画の魅力を増加させるという大変な力作でした。

――試写で拝見しましたが、たしかに動きがすごかったです。

藤津:ああした作画の魅力は日本のアニメーションの味だと思うので、ぜひラインナップにいれたいと思いました。国内のラインナップはそんなふうに決めていった感じです。

レトロスペクティブ(回顧上映)の「夜明け告げるルーのうた」「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」「音楽」は、海外映画祭で賞をとった作品を基本にしました。これらの作品の監督は、次回作が世界で待たれているよ、というくくりです。受賞作である「この世界の片隅に」ではなく、「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」を選んだのは、新作シーンを加え主題が広がりを増した「(さらにいくつもの)」のほうが、片渕須直監督の現状の最新作であり、もっと多くの人に見てもらいたいと考えたからです。また、片渕監督が制作中の最新作「つるばみ色のなぎ子たち」のパイロット版も上映され、スクリーンで見ることができる貴重な機会になります。

――一般公開前の上映になる「駒田蒸留所へようこそ」のお勧めポイントを聞かせてください。

藤津:「花咲くいろは」「SHIROBAKO」など、P.A.WORKSがずっとつくってきた「お仕事シリーズ」の最新作で、幻のウイスキーの復活を目指す若き女性経営者と、やる気のないウェブ媒体の男性記者がメインの物語です。これまでのシリーズでも描かれてきた、P.A.WORKS代表の堀川(憲司)さんらが考える「会社とは」「仕事とは」というテーマに加え、今回は「人を育てるってどういうことなんだろう」という部分にスポットがあてられています。

完成するまで時間がかかるウイスキーを題材にすることで、人を育成することのスパンの長さや意味みたいなものが重なるようにつくられていて、共感をもって見てもらえる映画になっていると思います。

――「青年を描くアニメーション」「アニメーション表現の可能性」と題したシンポジウムも行われます。現時点で考えられていることをお聞かせください。

藤津:海外のアニメーションは子ども向けのものが多く、ヤングアダルトから青年に相当する人物が主人公なのは、長らく日本のアニメーションの特徴のひとつだと言われてきました。それが最近は、美大生の青春の物語を描く「アートカレッジ1994」や、人生の悲哀みたいな物語の「ロボット・ドリームズ」、そのほか今回選んだ海外作品にはいずれも、日本のアニメが描いてきた題材の片鱗が感じられて、とくに海外の映画祭などでは、そうした作品が増えてきたというのが僕の大雑把な認識です。そうした認識のもと、青年という題材と組み合わせて、アニメーションだからこそ描けるものとは何か、それぞれの監督にお話をうかがえればと考えています。

もうひとつの「アニメーション表現の可能性」は、もう少し大きなテーマです。海外でこれだけ長編アニメがつくられるようになった今、CGやストップモーションふくめ、“絵で語る”アニメーションのこれからの可能性みたいな話がうかがえればなと思っています。「10年先のアニメーションがどうなるか」というよりは、「それぞれのつくり手が次の作品でどういったステップに進もうとしているのか」というニュアンスでとらえていただけるといいのかなと思っています。

シンポジウムには、海外作品の監督にも参加していただく予定です。カルチャーギャップもふくめ、クリエイター同士のコミュニケーションを楽しみながら聞いてもらいたいです。

――プログラムをとおして、映画祭をどのように楽しんでもらいたいと思われますか。

藤津:今回のラインナップを実際に見ていただくと、アニメーションってこんなにバリエーションがあるんだということが伝わるのではないかと思います。海外作品を加えたことで、確実に幅がひろがっていることも感じていただけるはずです。

今回は、小さな日常をとおして大きく人間を描いていくような作品を中心に選びました。面白さだけでいうと、例えばSFっぽいものも候補としてはあったのですが、「青年」をシンポジウムのテーマにしたこともあり、小さいところから実感をもって描いていった先に大きなテーマが広がってみえてくる。そんな奥行きある作品を並べたつもりです。アニメーションの幅と奥行きを、今まで以上に楽しんでいただけると思います。

【アニメハック】(執筆者:五所光太郎)

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