阪本順治監督×美術監督・原田満生が語る「せかいのおきく」裏話 リアル過ぎる糞尿は何で作った?

2023年4月27日 14:00


(左から)阪本順治監督、原田満生
(左から)阪本順治監督、原田満生

北のカナリアたち」「冬薔薇(ふゆそうび)」などの阪本順治監督が、黒木華を主演に迎えた時代劇「せかいのおきく」が、4月28日から公開される。江戸時代末期、厳しい現実にくじけそうになりながらも心を通わせることを諦めない若者たちの姿を、墨絵のように美しいモノクロ映像で描き出した。本作の企画は、阪本監督作品や数々の邦画の美術を手掛けてきた原田満生の“ある思い”から動き出している。阪本監督と原田に、本作の話を聞いた。

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【あらすじ】
武家育ちである22歳のおきく(黒木)は、寺子屋で子どもたちに読み書きを教えながら、父と2人で貧乏長屋に暮らしていた。ある雨の日、彼女は厠のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次(寛一郎)と下肥買いの矢亮(池松壮亮)と出会う。つらい人生を懸命に生きる3人は次第に心を通わせていくが、おきくはある悲惨な事件に巻き込まれ、喉を切られて声を失ってしまう。


日本の映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、さまざまな時代の「良い日」に生きる人間の物語を映画で伝えていく「YOIHI PROJECT」の劇場映画第1弾となる作品。撮影現場では、美術セットや小道具、衣裳にいたるまで劇中に出てくるものすべて新しいものは一切使用しないなど、江戸の循環型社会と同様に、環境に配慮したさまざまな取り組みが行われた。

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――本作の企画の成り立ちを教えてください。原田さんは「YOIHI PROJECT」を立ち上げていますが、いつ頃から環境問題に興味を持ったのでしょうか。

原田:4年ほど前に大病を患ったときに、生き方などいろいろと考える時間がありました。その時に世の中もコロナ禍に入って価値観が変わっていき、いろんなことが重なった時期に、環境問題などに取り組んでいる学者の方と知り合う機会がありました。その方たちの話を聞いているときに、こういう問題を映画の中にちりばめて散りばめて作品を作ってお客さんに観てもらう活動をするのは、今後の自分の生き方としてアリだと思いました。そこから「YOIHI PROJECT」を立ち上げて、阪本さんにこの映画の監督をお願いしました。

阪本さんとはもう30年以上の付き合いです。いろんなことを教えていただいて、今の自分があるのも阪本さんがいるからです。ほかの監督に頼むことは思いつかず、当たり前のように阪本さんの名前を思いつきました。

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――「せかいのおきく」の企画を聞いたとき、阪本監督はどう思いましたか?

阪本監督:まず、原田が環境問題を描こうとしていることに一番びっくりしました。体育会系のただただやんちゃなイメージしかなかったので(笑)。

原田:そんなことないですよ(笑)。

阪本監督:原田の病気が安定している頃に、2人で京都に旅に行きました。病気の回復を待ちつつ、原田は学者さんと出会い、映画を作りたい、そして作ることで元気になりたいという思いもあったんだと思います。ただ、僕自身は啓蒙的な作品を作るのは苦手でした。彼が持ってきた企画書には、江戸時代の循環型社会について書いてあって、まぁ「うんこ」の話ですよね。うんこだったら監督をやると言いました。誰もやったことのないことだし、自分が望んでいた時代劇だったので、あらすじを考えてみると伝えました。

――お二人の出会いはいつ頃になりますか? また、お互いにどのような印象を抱いていますか。

原田:最初に出会ったのは、阪本監督の「王手」(1991)という作品でした。通天閣の窓の外が海になっているワンシーンがあったのですが、当時は合成を使うような時代ではなかったので、日本海が眼前に広がる東尋坊に通天閣を作るのを僕が担当しました。

阪本監督:懐かしいですね。今の原田は酒を飲まなくなったので、喧嘩を売られることがなくなりました(笑)。30年くらいの付き合いなので、映画界の同僚っていう言い方もできますが、プライベートの付き合いも多いので身内のようでもあります。困ったときに「何とかしてくれよ~」って言えるような弟です(笑)。台本上に書かれた文字面を立体化してセットを作るなり、飾りこむアイデアを思いつくことについては、日本映画で1番だと思っています。その彼が今回プロデュースをするということで、美術も自分で兼ねてやるだろうし、監督を断る理由はありませんでした。僕の監督30作目の作品だったので力も入っていますし、その場を与えてくれて感謝もしています。

原田:阪本さんとは仕事をする機会が多いですが、飲む機会もすごく多かったですよね。喧嘩みたいなこともありましたが、僕が酔っていて覚えていないこともありました(笑)。

阪本監督:飲んだ次の日に「昨日何があったんでしょう?」って連絡があったりして。結構大事な会話をしたつもりなのに、あれも忘れているのかって(笑)。

原田:30年以上も時間を共有させてもらっているので、自分がへこんだときは阪本さんに連絡をとらせてもらって、弱音を吐いています。そういうことができる方って、業界内にはなかなかいないです。

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――劇中に登場する糞尿は、モノクロで見ても質感がとてもリアルでした。何でできているのでしょうか。

原田:段ボールを削って水につけてふやかして、色や粘り具合を足しています。泡が出る入浴剤も入れて、発酵を表現しました。今回3ブロックに分けて撮影が行われたので、前半はこのやり方で糞尿を作っています。後半は糞尿をかけられるシーンがあるので、俳優の方の口に入る可能性も考えて、お麩をベースにして作っています。音の効果もあって、かなり本物っぽくなっていると思います。

阪本監督:廃棄されるような食材も糞尿を作るのに使いました。ただ、大量に作ったので冷蔵庫に全部保存ができなくて。撮影は暑い日だったので、本当に臭いんです。匂いは糞尿とは違いますが、鼻につんとくるような。それはそれで俳優はやりやすかったと思います。

――本作はモノクロが基本ですが、ところどころカラーの映像も差し込まれました。どんな狙いが込められていますか。

阪本監督:この映画は珍しく短編集のような作りになっています。月日が経って次の章に行く前に区切りをしっかりしないと、前の短編を引きずってしまうと思ったので、そういう場面にカラーを入れています。あと、全部モノクロだと、昔撮られた作品を今見ているように感じてしまうかなとも思ったので。そう思われたくなかったのと、昔の話ではなくて、今に通じる話ということを伝えるためにもカラーを入れました。

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――まだ手話のない時代を描いています。声を失ったおきくが、表情と動きだけで感情を伝えようとするシーンが印象的でした。黒木さんにはどのように演出をされましたか?

阪本監督:脚本のおきくの部分には「こんな感じの気持ちを伝えてください」ということではなくて、「おきくの気持ちを言葉にすればこういう言葉です」ということが書いてありました。後半には、おきくが中次におにぎりを持って行こうとするけれど、荷車とぶつかり、おにぎりが潰れてしまうというシーンがあります。この流れをおきくが中次に伝えようとする場面には「おむすび作ってきたんだけれど、荷車どかーんのおむすびぐしゃー」って書いたんです。それをやってほしくて、黒木さんにお任せしますと。

原田:ちゃんと表現されていて本当にすごかったですよね。黒木さんとは以前にも仕事をさせていただきましたが、芝居をしているときに僕がカメラをのぞく機会があったんです。そのときのお芝居と振る舞い、表情がすごく印象的でした。この作品が決まった時も黒木さんの存在感がずっと頭に残っていたので、黒木さん以外にお願いするという選択肢がなかったです。2月に開催されたロッテルダム国際映画祭で、ものすごく大きいIMAXのスクリーンで本作を観ましたが、黒木さんのアップはやっぱり存在感がすごかったです。何かそういうものを持っているんだなと印象に焼き付いています。僕が黒木さんにそう感じたように、この映画を観た人たちにもそういう印象が伝わっていくんだなと思います。

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――ありがとうございました。最後に、映画メディアということで、お二人が今までに影響を受けた映画や、好きな映画を教えてください。

原田:僕は寅さんが好きなので「男はつらいよ」シリーズは年に1回必ず見て、元気をもらっています。そういう意味では、「せかいのおきく」も鑑賞後に元気をもらえるというのが共通しているなと思います。

阪本監督:ベルナー・ヘルツォークの「カスパー・ハウザーの謎」です。自分の謙虚さとか欠損具合とか、見ているといろんなものが重なります。自分の原点なので、こういう質問に毎回同じ作品を挙げているのですが、「せかいのおきく」に限って言うと、「人情紙風船」を見直しました。落ちぶれた侍夫婦が長屋に住んでいるので、おきくが長屋に住んでいるという設定はこの作品がヒントになり、アイデアが浮かびました。

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