【「ノースマン 導かれし復讐者」評論】ロバート・エガース監督の新作はヴァイキング版の血まみれ「ハムレット」

2023年1月22日 11:00


「ノースマン 導かれし復讐者」
「ノースマン 導かれし復讐者」

ロバート・エガースによる監督第3弾。北欧の神話・伝説「エッダ」と、シェイクスピア「ハムレット」やアニメ「ライオン・キング」の元ネタとなった、12世紀の作家サクソのアムレート(アナグラムでHamlet)伝説を、脚本家ショーンと監督が大胆に翻案。父を殺され国を追われた王子の復讐劇を、忠実に再現したヴァイキング社会と共に描くエピック・ロマン。

9世紀の北欧。ある島の若き王子アムレートは、叔父フィヨルニル(クレス・バング)の裏切りにより父オーヴァンディル王(イーサン・ホーク)を殺され、母グートルン王妃(ニコール・キッドマン)を奪われる。逃げ延びた王子は復讐を誓い、数年後ヴァイキングのベルセルク戦士(アレクサンダー・スカルスガルド)へと成長、預言者(ビョーク)に導かれ、旅で出会ったオルガ(アニヤ・テイラー=ジョイ)と共に身分を偽り、仇敵である叔父の元へと舞い戻る。

監督はこれまで米ニューイングランドで起こった実際の事件(セイラムの魔女裁判、スモールズ灯台事件)を映像化した独立系の比較的小規模な「ウィッチ」「ライトハウス」を手がけたが、今回は大手スタジオ、6000万ドルの予算、豪華キャストの競演と、前2作とは比較にならない規模の超大作に挑んでいる。

映画の発案者で製作にも名を連ねる主演アレクサンダー・スカルスガルドとエガース監督は「史上最も正確なヴァイキング映画」を目標に、衣装、装飾品、武具、住居、戦闘船などを徹底研究、1000年前と同じ素材で釘一本、布一切れ、板一枚から調達。また、略奪や襲撃などの残虐場面はありつつ、女性兵士の存在、盛んな交易、農耕牧畜による定住生活、土着信仰や神秘主義、キリスト教との対立など、ヴァイキングの生活や文化も丁寧に描いている。

劇中、ロングシップに乗るアムレートを捉える場面は、イヴァン・シーシキンの絵画を参考に当時の季節の花を添えるなどの凝った画面設計がなされ、ルースの地(現ロシア・ウクライナ)の戦場で、飛んできた槍を背面キャッチして投げ返す印象的なシーン(今後流行るだろう)は、アイスランドの古典「ニャールのサガ」から引用されたもの。高い娯楽性とともに、歴史への敬意に溢れる素晴らしいショットだ。

このエガース監督、アスペクト比にはこだわりがあり、前作「ライトハウス」ではフリッツ・ラングの「M」(1:1.20)とほぼ同じ「1:1.19」を採用しているが、今回は「1:2」を採用。これはノッチの狭いスマホに適した画角として、近年配信作品中心に採用されている画角だ。長回しの多用とフィルム撮影で映画館向きの本作だが、なぜこのサイズになったのか、監督に聞いてみたい。

(本田敬)

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