フランスの新鋭レア・ミシウス、SFタッチのスリラー「ファイブ・デビルズ」は「様々なジャンルを深掘りした」

2022年11月18日 19:00


レア・ミシウス監督
レア・ミシウス監督

フランスの新鋭レア・ミシウスの長編第2作で、日本劇場初公開作となる「ファイブ・デビルズ」。「アデル、ブルーは熱い色」のアデル・エグザルコプロスが主演を務め、香りの能力を持つ少女が母の封じられた記憶に飛び込んでいく姿を、35ミリフィルムを用い、恐ろしくも美しい映像で描き出す、SFタッチのスリラーだ。日本公開を前に、ミシウス監督がオンラインインタビューに応じた。

<あらすじ>
 嗅覚に不思議な能力を持つ少女ヴィッキーは、大好きな母ジョアンヌの香りをこっそり集めている。ある日、謎めいた叔母ジュリアが現れたことをきっかけに、ヴィッキーのさらなる能力が開花。ヴィッキーは自分が生まれる前の母と叔母の過去にタイムリープしてしまう。

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――「シャイニング」の冒頭を思わせる空撮シーンから始まり、「ツイン・ピークス」のような田舎町で起こる不可解な出来事、そして、少女は母親の過去にタイムリープしてしまうという設定と物語の展開が魅力です。

映画監督は、だいたい前作とは同じものを作りたくない、同じことを繰り返したくないという気持ちがあるものです。長編デビュー作の前作「アヴァ」で、私にとって最も大切だったのは、風景でした。それは私が子どもだった頃に親しんだ風景で、太陽が輝き、開放感のあるものです。今回はそれとは逆に風景は冷たく、閉鎖的な村を舞台にしました。今回はどちらかと言うと人物に焦点を当てたかったのです。前作ではアヴァという少女がメインでしたが、今回は様々な登場人物がおり、その関係性が複雑なものになっています。

また、人物に焦点を当てたという意味で、この作品は小説的であるとも言えます。ロマネスクな感じで、いろんな視点が交差しますし、ストーリーも重層的で。現実と過去を行ったり来たりします。これはリスクを取るような挑戦でした。ポリフォニックのように様々な声が重なり、そこに動きがある。さらにそこに私は、精神分析学的な無意識というものを取り入れました。様々なジャンルを深掘りし、観客が見て面白いと思ってもらえるものを追求しました。

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――ご自身の監督作以外にも、これまでアルノー・デプレシャンイスマエルの亡霊たち」、ジャック・オーディアールパリ13区」などの共同脚本を担当しています。フランスの名門校FEMIS脚本コース出身ですが、もともとは脚本家志望だったのですか?

はい、幼いころから私は映画監督ではなく、作家を目指しており、詩や小説などをたくさん書いていました。物書きになるということが大事だったのです。そして自分に書く才能があることも自覚していました。しかし、思春期に、文学と同時に映画も面白いと思うきっかけの作品があったのです。それがアルノー・デプレシャンの「そして僕は恋をする」です。あの作品のダイアログは非常に文学的で、文学と映画を融合させることが可能だとわかりました。

そして、10代半ばでカメラをもらったので、自分で書いた脚本で短編映画を撮りはじめ、今度は映像や編集にも興味が出てきました。若いころは、文学の方が高尚だと思っていた節があったのですが、それが変わったのです。でも、映画を作るためには文学的な勉強、教養が必要だと思ったので、まず文学の勉強をしました。それからFEMISに行くと決めたとき、監督コースで行くか、脚本コースで行くか、天秤にかけなければなりませんでした。私にとって大事なのはどう書くか――内容よりもスタイル、文体だと思っています。ですから、私が書くものの中身は大したことは起こらないのです。その書き方、文体に良さがあるという自負がありますが、それでは映画として成立しません。ですから、シナリオを書く技術を学ばなければいけないと思い脚本コースを選びました。

監督は俳優の演技指導をしなければなりません、それは私にとっては未知でしたが、書くことはよくわかっていたので。学校に入って短編を撮るようになって、トレーニングを積み、監督にもなり、今は他の監督との共同脚本として参加しています。それぞれ違った仕事になりますが、補足し合い、私にとってどちらも豊かになる相乗作用を感じています。

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――デビュー作「アヴァ」の成功もあり、今回はキャスティングも含め比較的自由に製作することができるようになったのでしょうか。

第1作の「アヴァ」から35ミリフィルムを使いました。私自身が製作会社を運営していて、私以外にもう一人のプロデューサーがいます。そういう意味で、企画を立ち上げやすいのですが、資金調達はやはり難しいです。たくさん予算があったわけではないのに、アデル・エグザルコプロスのような有名女優を起用できたのは、彼女が「アヴァ」を見ていてくれていて、今回のシナリオを気に入ってくれたので起用できました。

――「シャイニング」や「ツイン・ピークス」などアメリカ映画から影響を受けたと公言されています。

フランス映画も含め、様々な監督たちの作品を見ていますが、もちろん自分の作風を大事にしたいと思っています。私は映画からの影響というよりも、アメリカ文学からの影響が大きいです。トニ・モリスン、ジェイムズ・ボールドウィン、ジム・ハリソンなどです。また、精神分析的なアプローチが特徴の、フランスのパスカル・キニャールという作家に私は大きく影響を受けています。また、文学や映画に限らず、自分の友人たちからも影響を受けています。様々なものが集合して、私のなかで消化されていくのだと思います。

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――“匂い”を、娘ヴィッキーのタイムリープのきっかけとした理由を教えてください。

私が個人的に嗅覚に興味を持っていました。普段香水を選ぶ時も、何の香りからできているのか分析したい、私自身の性癖を生かしました。しかし、香水業界の話をするのではなく、もっとプリミティブで動物的で風変わりな形で香りを題材にしたいと思ったのです。ヴィッキーを小さな女の子にしたのは「ブリキの太鼓」からの影響が若干あります。私も子どもの頃、枯葉を煮詰めて、香りを集めたことがありました。そういった経験を書き集めて、その中から自分の語りたいストーリーを見つけ出していきます。過去の母親を再訪するヴィッキーは、私自身がやっていたことと近いのかもしれません。

ファイブ・デビルズ」は、11月18日からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほかで全国公開。

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