【コラム/細野真宏の試写室日記】どこよりも早い「夏休み映画」の総括。勝ち組ランキング・ベスト9は?

2021年8月27日 09:00


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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


今年の夏休みは新型コロナウイルスの2年目という「100年に1回」の規模での世界的なパンデミックの中での映画興行。

そのため、状況がこれまでとは大きく異なりアーカイブとして意味のあるものと考え、「夏休み映画」を中心に興行の状況をまとめてみます。

まず、そもそも「夏休み映画」という“期間の問題”から設定が必要そうです。

というのも、3回目の緊急事態宣言の対象地域では基本「映画館の上映禁止」にまで至ったので、多くの作品が夏休み期間までズレ込むことになったからです。

そのため、ここでは、「公開が夏休みまで続いている作品」も対象にまとめてみます。


9位
●8月6日公開「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション」(配給元:東宝)

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こちらはまだ3週目のため、最終的には7位にまで上がりそうです。

というのも、8月22日時点で興行収入20.6億円ですが、8月28日(土)から50万部の第2弾入場者プレゼントを開始し、4Dでの上映も行うからです。

この「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE」というシリーズは第1作目が興行収入17.2億円で、第2作目が興行収入17.9億円となっています。

ちなみに、この2作目までは入場者プレゼントとして、小冊子100万部を用意していました。

ただ、2作目の動員の動向を見ていると、この入場者プレゼントが切れるまではかなりのスピードだったのが一気に落ちたので、「もう少し用意していればいいのに」と思っていました。

その流れもあり、本作の第3作目は、小冊子を150万部用意していたと思われます。

とは言え、今回は、ちょっと初速の勢いも含めて上がっていて、どうやら作品自体の人気が上がってきているようなのです。

初速を見て、「ひょっとしたら興行収入25億円は狙える?」というスタンスでしたが、今週末からの入場者プレゼント第2弾などの投入で、興行収入25億円突破は確実になりそうです。

余談ですが、原作者が第2作目の時に「もう映画化はないでしょう」的なコメントをして、やたらとこれで最後と匂わせていて、素直に「そういうものなのか」と思っていたので、ちょっとやられました(笑)。

この作品は配信との相乗効果も出ているようで、第4作目はどうなるか注目です。


8位
●6月11日公開「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(配給元:松ODS事業室)

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こちらは公開11週目の8月22日の段階で興行収入21.4億円と着実に伸ばしていて、「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」が持つ歴代ガンダムシリーズ最高記録の興行収入23億円を狙う勢いです。

ただ、12週目以降ともなると、そろそろ座席問題で限界が来つつあるようで、興行収入22億円超で終わってしまうのかもしれません。それでも、かなり「異例な結果」だと言えるでしょう。

というのも、この作品は、劇場公開時にBlu-rayを映画館で販売していて、そのBlu-rayも売れまくっているからです。

通常はBlu-rayを買えば、映画館に来る人はどんどん減っていくはずです。

このようなモデルケースはそんなにないため、興行収入は読めませんでしたが、作品のクオリティーが非常に高いので「興行収入は最低でも10億円は行くべき映画」だと思っていました。

そして、興行収入10億円を無事に超え、20億円も目指せそうだったので、製作陣は入場者特典を急きょ12週まで用意するという戦略に出たようです。

この「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は3部作なので、残りの2作品でどのようになるのか大いに注目されます。


7位
●6月4日公開「るろうに剣心 最終章 The Beginning」(配給元:ワーナー・ブラザース)

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本作は「るろうに剣心 最終章」として、「るろうに剣心 最終章 The Final」に続き“連続公開”された作品。

作品の完成度は非常に高かったのですが、「るろうに剣心 最終章 The Final」と同様に緊急事態宣言の影響を受けています。

公開11週目の段階で公開劇場が大きく減って8月8日の段階で興行収入24.8億円。現時点も上映中で最終興行収入はまだ緩やかに伸びています。


6位
●8月6日公開「ワイルド・スピード ジェットブレイク」(配給元:東宝東和)

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ようやく洋画の登場で、この状況から見ても「日本の映画市場では、まだ洋画が回復していない」というのが分かります。

そんな中でも「ユニバーサル・ピクチャーズ作品で最も稼いでいるシリーズ」だけあり、やはり強かったです。

8月22日時点で興行収入27.5億円と着実に伸ばしています。

前作となる2017年の第8作目「ワイルド・スピード ICE BREAK」の興行収入は40.5億円で、上手くいければ同作を超え歴代最高もあり得ました。

ただ、やはり新型コロナウイルスの状況は無視できないものとなってきています。

東京や大阪など、すでに緊急事態宣言が出ている13都府県の地域に加え、北海道、宮城、岐阜、愛知、三重、滋賀、岡山、広島の8道県を8月27日から追加する方針になっています。

そのため、この対象地域は「21都道府県」にも及ぶ範囲で、「市松模様(座席半分)」かつ「レイトショー禁止」といった状況になります。

その一方で、新作映画の公開延期はまだほぼない状況なので、特に週末の座席問題も大きく、ここからは全体的に「下方修正」を行わないといけない状況にありそうです。

ちなみに、「ワイルド・スピード」シリーズは、2015年の第7作目「ワイルド・スピード SKY MISSION」が「世界興行収入でシリーズ最高」を記録しています。

そのため、この時の日本での興行収入35.4億円を超えられるかどうかが、現実的な注目点となりそうです。


5位
●7月9日公開「東京リベンジャーズ」(配給元:ワーナー・ブラザース)

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こちらは公開7週目の8月22日の段階で興行収入38.4億円と、着実に伸ばしていて、座席と上映回数さえ確保できれば邦画実写1位の座もあり得る水準です。

個人的には、話題となった「劇中のプリクラ画像」を使った入場者特典などをそろそろ投入してほしいと思っていますが、様子見状態です。

この「東京リベンジャーズ」で注目される動きは、「鬼滅の刃」のように、マンガとアニメ版の影響力です。

「鬼滅の刃」の時と同様に、気軽に「アニメ版」が配信で見られる環境になってきているので、この流れを受け、人気が加速している面も大きいようです。

実際に配信ランキングが映画公開の前から大きく動いてトップになっていたので、配信は映画館の「ライバル」である一方で、「強力なサポート要因」にもなると言えます。


4位
●4月23日公開「るろうに剣心 最終章 The Final」(配給元:ワーナー・ブラザース)

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本作の完成度は非常に高かったのですが、残念ながら、公開直後の4月25日(日)の段階で3回目の緊急事態宣言が直撃してしまいました。

3回目の緊急事態宣言は、2回目の「レイトショー禁止」というだけの措置ではなく、特に対象地域の東京都と大阪府では基本「映画館の上映禁止」にまで至ったのです!

その後、東京都と大阪府では、映画館に出されていた休業要請が6月1日から緩和されて実質的に、ここからが「再スタート」に。(ただし、大阪府では6月20日まで土日は休業のまま)

これに合わせる形で頻繁に舞台挨拶をしたり、入場者特典を付けるなど、かなり追い上げました。

そして、公開15週目の段階で公開劇場が大きく減って8月1日の段階で興行収入43.2億円。現時点では「邦画実写1位」となっていて、最終興行収入はまだ緩やかに伸びています。


3位
●7月16日公開「竜とそばかすの姫」(配給元:東宝)

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こちらは8月22日時点で興行収入52.1億円と、すでに細田守監督作品の最高記録である「バケモノの子」の興行収入58.5億突破は確実な状況となっています。

この「竜とそばかすの姫」は、ディズニー作品的な要素や、歌を大きな題材として取り入れた点が、新たな客層に響いたのも特筆すべき点としてあります。

当初の推移から考えると興行収入70億円程度が目安と考えられましたが、こちらも「ワイルド・スピード ジェットブレイク」と同様に、緊急事態宣言の影響を踏まえないといけない状況になりそうです。

本作の場合は、興行収入70億円とまでは行かずとも、65億円くらいに近づければ十分な成功でしょう。

ただ、入場者特典を付けるなどの方法で興行収入70億円に持っていくことも可能だとは思います。


2位
●4月16日公開「名探偵コナン 緋色の弾丸」(配給元:東宝)

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こちらは初週の3日間で興行収入22億1800万円を記録し、シリーズ初の興行収入100億円突破が確実視されていました。

しかし2週目の4月25日(日)から東京都、大阪府、京都府、兵庫県において3回目となる緊急事態宣言が発令された結果、大きな誤算が生じました。

るろうに剣心 最終章 The Final」と同様に、3回目の緊急事態宣言の影響が直撃してしまいました。

そのため、4月25日(日)に予定されていたライブビューイングでの全国舞台挨拶は急きょ中止となり、結局、これは実現しないままで終わってしまいます。

その後、東京都と大阪府では、映画館に出されていた休業要請が6月1日から緩和されて実質的に、ここからが「再スタート」に。(ただし、大阪府では6月20日まで土日は休業のまま)

ところが、前述のように舞台挨拶はなくなり、起爆剤としての入場者特典もない状態で、残念ながら消化試合のような様相に。

そのため、こちらは公開17週目の段階で公開劇場が大幅に減って8月9日時点での興行収入は75.5億円。現時点でも上映されていますが、本作は上映環境を考えると、かなりの善戦と言えるでしょう。


1位
●3月8日公開(7月21日まで大規模上映)「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(配給元:東宝、東映、カラー

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私は本作の興行収入は「アベンジャーズ エンドゲーム」の対比になると考え、3月11日に映画.comのコラムで書いていた興行収入87億円を基本ラインと想定していました。

ただ、「入場者特典次第」とし、「100億円に届いてくれたら嬉しい」という条件付きでした。

5月15日から第3弾の入場者特典リバーシブル・ミニポスターを100万部の配布開始で、やや息を吹き返し、6月6日時点で86億7137万円と、無事に87億円に行けそうになります。

ところが、公開から3カ月が過ぎ新規公開作品が増え、公開劇場数や上映回数は減ってきていましたが、ここから特筆すべき怒涛の入場者特典が始まりました。

6月12日、A4のリバーシブル・ミニポスターに加え、「7月21日終映」に向けた豪華冊子「EVA-EXTRA-EXTRA」の配布(100万部)を開始したのです。

同時に、本編映像の一部差し替えを行い、新バージョンの「EVANGELION:3.0+1.01」での公開。そして全国6劇場にてドルビーシネマでの上映も開始されました。

さらには、6月26日から最後の入場者特典として合計100万部「真希波・マリ・イラストリアス」「渚カヲル」ミニポスターの同時投入も開始。また「フィナーレ舞台挨拶」も行われました。

これらの怒涛の展開が功を奏し、7月12日までの127日間で見事に興行収入100億円を突破したのです!

ちなみに公開20週目となる7月25日時点でも25館規模で上映は続いて、102.23億円を突破し、最終興行収入はこの金額より増えることになります。


以上のように見てみると、興行収入20億円超えの作品は、9作品中5作品が東宝(東宝東和も含む)で、やはり圧倒的な強さは健在のようです。

また、注目したいのは、洋画がダメージを受けているのに、3作品がワーナー・ブラザースとなっている点です。

実は、ワーナー・ブラザースでは年間を通じ3本の邦画が20億円を超えたのは、2006年ぶりの2度目の快挙となっているのです。

このように、この夏の時点では、邦画が日本の映画業界を支えている面が浮き彫りになりました。

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