ユエン・ウーピン「マトリックス」のオファーを2度断っていた!

2019年7月12日 13:00


香港映画界の重鎮がNYで秘話を明かした
香港映画界の重鎮がNYで秘話を明かした

[映画.com ニュース] 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」「マトリックス」「キル・ビル」シリーズ、「グリーン・デスティニー」といった作品で武術指導を担当した香港映画界の重鎮ユエン・ウーピン。このほどリンカーン・センターで開催された「第18回ニューヨーク・アジア映画祭」に出席し、インタビューに応じた。(取材・文/細木信宏)

香港映画界初の武術指導となったユエン・シャオティエンを父に持つウーピンは、幼少期から武術、京劇などを学び、スタントマンとして映画界に入った。1970年代から武術指導を任され、若きジャッキー・チェンを主演に据えた「スネーキーモンキー 蛇拳」「ドランクモンキー 酔拳」では、監督としての才能を発揮。80年には「和平電影製片公司」を設立し、自身の血縁関係で構成された「袁家班」(ユエン・アクションチーム)を結成し、数々のカンフー映画を手がけるようになった。その後「マトリックス」でハリウッド進出を果たすと、ワイヤーアクションが世界的評価を受けた「グリーン・デスティニー」、クエンティン・タランティーノ監督作「キル・ビル」、チャウ・シンチー監督作「カンフーハッスル」といった秀作の武術指導を行ってきた。

まずウーピンが語ってくれたのは、映画界に入るきっかけとなった父シャオティエンのこと。「父はカンフーや武術指導について教えてくれたが、私が行った武術指導や監督作とは、あまり関わり合いがないと思っているよ」と話し、原点となった“父の教え”と“今の自分”を切り離してとらえているようだ。映画界では、俳優、スタント、武術指導、監督、製作者と様々な仕事をこなしてきたウーピン。最もやりがいを感じるのは、どのポジションなのだろうか。

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ウーピン「正直、自分が俳優として演じることは好きではない。武術指導が一番好きだね。遊び心を持って色々なことを試せる余裕があるからだ。勿論、監督業も好きだが、そこでは多くの時間を割り当てなければならず、おそらく必要とする時間は武術指導よりもずっと長い。武術指導として作品に携わった場合、関わる時間は3カ月ほどだろう。だが、監督としてならば、準備期間のプリプロダクションから、ポストプロダクションまで――撮影が早い香港映画だとしても、最低でも1年はかかる。だが“満足度”という意味では、やはり監督だ」

「私の武術指導は、あくまで俳優の手助け」という考えを持つウーピン。「ただ、私がともに働く俳優たちは、武道の経験があったり、戦い方を知っている者ばかりなので、私自身も彼らと“同じレベル”で接している。まず初めに、私が各シーンの振り付けを俳優に見せる。もしも、俳優がどこかを変更したかったら、そのアイデアがシーン全体に合っているかを確認し、即興でやらせることも多々ある」と柔軟な姿勢で武術指導に臨んでいるようだ。さらに身体的スキルを兼ね備える俳優が集うため、「私が行なっている武術指導では、ほとんどCGを使うことはない。もしCGを加えるとしても、編集段階でわずかに付け加える程度」だと明かしてくれた。

また、今年製作20周年を迎えた「マトリックス」に関して、驚きの秘話が飛び出した。

ウーピン「『マトリックス』のプロダクションチームから受けた(武術指導の)オファーを、私は2度断っていたんだ。その後、香港の映画会社ショウ・ブラザーズのプロダクション・マネジャーに『マトリックスのプロダクションチームはとても誠実で、あなたと話がしたいだけだ。これから飛行機のチケットを渡すから、ハリウッドで彼らと会ってみたらどうだ』と説得された。ハリウッドを訪れ、共同監督のラナ&リリー・ウォシャウスキー(当時はラリー&アンディ・ウォシャウスキー)と会合した結果、『マトリックス』の特撮やCGが、中国のカンフー映像をより強化させるためのものと理解できた。これは良い案だと思って、自ら進んで参加したんだ」

ところが撮影前、主演のキアヌ・リーブスと対面し、パンチをさせてみると「すぐに彼が本格的な武術経験がないことがわかった」という。その結果、リーブスに対して4カ月にも及ぶトレーニングを敢行したようだ。「最初の約1カ月半は基礎的なトレーニング、残りの2カ月半は、それぞれのアクションシーンの動きを、入念に練習してもらった。俳優陣のトレーニングを何度も見て、私自身が納得できた段階で撮影を行う――その結果、様々な東洋文化を含んだ『マトリックス』は、その後のアクション映画の軌跡を変えることになったんだ」と当時を振り返っていた。

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アクション映画の潮流については「かなり大きな変化があると思う。昔からアクション映画では、様々な動きを要求される。それは現在でも同じことだが、戦闘シーンでの“力加減”は、はるかに難しくなっている。実際に攻撃が当たっているように見せるという点については、より高度なものが求められているんだ」と分析するウーピン。かつて「香港映画には、輝かしい未来がある」と語っていたが、現在でも同様の思いを抱いているのだろうか。

ウーピン「(香港映画は)また新たなことができる、今でもそう思っている。90年代の香港では多くの作品が生まれたが、今の香港映画に求められているのは“質の高い作品”だ。ただし“質の高い作品”を作るには、新たなアイデアも生み出さなければいけないがね」

インタビューの最後には、自身が手がけたお気に入りの作品を教えてくれたウーピン。「古き良き衣装を使い、カンフー映画のクラシックとされる映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝 アイアン・モンキー』と、斬新的なスタイルの戦い方を打ち出せた『タイガー刑事』だね」と笑顔で答える姿が印象的だった。

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