美しい女性ばかりが登場する「ミスター・ノー・プロブレム」、監督の思惑は?

2016年11月4日 17:00


インタビューに応じたメイ・フォン監督ら
インタビューに応じたメイ・フォン監督ら

[映画.com ニュース] 重慶で農場の監督をするディンは、利益を上げるため空き部屋を貸す。ところが農場のオーナーは農民と癒着するディンをクビにして、近代経営を実践する男を雇用しようとする。中国近代文学を代表する作家、老舎の短編小説をもとに、ロウ・イエ監督作の脚本で知られるメイ・フォンが初めて監督に挑んだ、寓意に満ちた人間喜劇。1940年代の中国を再現したモノクローム映像、ユーモアと風刺に富んだ語り口がみごとな効果を上げる。

――すでにあなたは脚本家として有名ですが、老舎の小説を選んだ理由をお聞かせください。

メイ・フォン監督(以下、メイ監督):初めて監督するにあたり、中国の文学史のなかで重要な老舎の作品をきちんと撮ることができたら、今後も映画監督としてやっていけるのではないかと考えたからです。これまで私が脚本家として書いてきたのはリアルな現代のドラマが多かったのですが、私が学校で教えているのは映画美学、伝統的な映画史です。この作品では、セリフを1940年代風にいかに近づけるか腐心しました。

――描かれている時代に惹きつけられたのですか? 共産主義前で昔の中国の伝統が残り、かつ現代の息吹も感じられる時代ですね。

メイ監督:たしかに時代への興味もありました。1940年代は劇的な社会変動が起きた時代です。戦争があり民族の存続が掛かっていた。そのような時代に人間がどのように生きていくか、個人的にも興味がありました。この小説は老舎の代表作ではありません。非常に短い短編でマイナーな部類に属します。しかし、この時代を撮ることによって、今日の社会を照射できると思ったのです。この時代は今の時代に共通していると思いました。

――その点について具体的に教えてください。

メイ監督:中国ならではの生活スタイルや人間関係の育み方は昔から変わりません。たとえば家族構成もそうですが、中国文化として安定しているものは、今も変わりがないわけです。そういう風土のなかに諧謔に富んだ老舎の世界を描こうとしたのです。

――なぜモノクロームで撮影したのですか。

メイ監督:撮影に入る前に私と美術と撮影監督の3人で相談したとき、撮影監督から、中華民国時代に撮られた写真を数多く見せてもらいました。資料が全てモノクロームだったので、3人の共通認識として、あの時代イコール白黒映像となったのです。中華民国の時代の雰囲気を撮るという狙いがありました。

――撮影監督としての苦労はありましたか?

チュー・ジンジン:監督は自由に撮らせてくれました。老舎の持っている味をどのように映像で表現するか監督と相談し、1950年代の英国製のアンティークなレンズを使って、ロングショットに徹することにしました。近づくと物事の本質が見えなくなる、引いて撮ることで物事が見えてきます。50年代のレンズというのは今のようにクリアではなく、ちょっとぼやけた感じになります。

――ファン・ウェイさんは懐の深い主人公を演じられましたね。

ファン・ウェイ:豊かで複雑な性格を持った人物を演じるときには、かなり引いた視点で観察する必要があります。初めて監督とこの人物について話したときも、水面は静かですが、水面下では非常に複雑な動きをするイメージと言われました。オーバーな表現はせずにいわゆる「節約した演技」を心掛けました。

――シー・イーホンさんは美しい第3夫人を演じられました。

シー・イーホン:この第3夫人は京劇の女優で、旦那が見染めて夫人に迎えたという設定です。この役は老舎の原作にはありません。第3夫人はかわいい女性ではありますが、野心がある。この映画のなかに出てくる人物は大なり小なりの野望を持っています。人間の複雑性や多面性を、脚本が浮き彫りにしています。監督は私に自由に演じさせてくれました。第3夫人は私と同じ上海人という設定で、夫との会話が上海語なのです。この映画のなかには、上海と重慶の方言が数多くでてきます。そうした意味でもこの作品は個性的です。

――ホアン・シーさんは共同脚本として、どの部分を担当されましたか?

ホアン・シー:脚本を監督とまとめるなかで苦心したのは構成をどのようにするかです。小説ではあまり細かく語られていない複雑な人間関係を脚本に取り入れ、今の中国社会を参考にして、権力の綱引きを描きました。それが大きなポイントです。

――美しい女性ばかり画面に登場しますが、監督の好みでしょうか(笑)?

メイ監督:中華民国時代のエレガンスな雰囲気を出せる女優という視点で選びました。あくまでも作品のためですよ(笑)。

(取材/構成 稲田隆紀 日本映画ペンクラブ)

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