劇場公開日 2023年12月8日

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「重荷を軽くしてくれた味方の男たち」市子 Don-chan(Daisuke.Y)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0重荷を軽くしてくれた味方の男たち

2024年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

最初の海の映像は何なのか。
たぶんそれは、全てを無にした旧約聖書の『ノアの大洪水』。

足をアップするのは、確かに生きているということでしょう。幽霊には足がないから。

市子の謎の行動の理由を知りたいと思えば、ちょうど誰かの直筆のような名前がすみっコに表示されて、その名前の人が主人公のエピソードが始まり、ある程度好奇心が満たされる。そして更に知りたいと思う事が発生すると、また別の人の直筆サインが表示されてエピソード。その繰り返しパターンが心地良い。

浜辺で母親から月子のことを聞いた義則(若葉竜也)が号泣した後、安定のパターンが崩壊する。直筆サイン無しで始まるヤキソバ購入シーンが、市子の回想とは知らず義則と市子が再開したのかと思った。初めての市子のナレーション付きエピソードは、誰かに宛てた手紙を読んでいるかのようだ。
義則は市子の母親の心を軽くした。
きっともう義則は市子を探さない、市子のために。

ラジオやテレビのニュースは市子が関係している内容のものばかりだった。
劇中の市子は、魔女の宅急便のキキのような服、独特な髪型と少し飛び出した片耳が特徴的で、戸籍がなく殺人しながら生きている控えめで優しいキャラクター。このアイデンティティは『リング』の貞子に並ぶほどインパクトがある。

市子として生きたその先にハッピーエンドがあった。しかし限界を知った。
♪戸籍なんてなーいさ、戸籍なんてうーそさ…
港でヒーローを女二人でコロしてクルマに乗せて保険証受渡し後アクセル全開かな。
罪も重荷もクルマとともに海にドボン。

今作は、自分の人生に置き換えて前向きに考えることができる。
最初のシーンに戻ったのは、まるで雨で何もかも流れてゼロになるようなリセットのよう。

市子は新しい自分を手に入れた。
荷物も持たず手ぶらになったから今度は上手くいくかもしれない。
エンドクレジットは無音。
そこにあるのは市子の鼻唄の余韻のみ。
味方のとこに重荷を置いて、足取りも軽く身軽にゆく。

Don-chan(Daisuke.Y)