劇場公開日 2024年2月9日

「パラレルワールドの「忠臣蔵」。」身代わり忠臣蔵 ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0パラレルワールドの「忠臣蔵」。

2024年3月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

こんな「忠臣蔵」があっても面白いと思う。実は「忠臣蔵」は、あまり好きにはなれない話である。主君の仇討ちなどというのは、美談のように語られるが嘘が多い。思慮の足りない藩主の尻拭いなど命を懸けてするものではない。本心では気持ちを切り替えて次の道に進みたいのだが、幕府の不公平な処分にも腹が立つし、世間は吉良が悪いと思っているから、主君の仇討ちをしろと藩士にプレッシャーをかける。そんな圧力や流れに流されてやむを得ず吉良邸に押し入ったというのが本当の所ではないか。
この作品が面白いのは、そんな武士の見栄や誇りを大切にしつつも、本心の部分をクローズアップしてコメディに仕立てたことだろう。色々な意見や理不尽さに悩む大石内蔵助は優しすぎるが、それが魅力でもある。吉良孝証は、吉良家からの無謀な要請に嫌がりながらも楽しんでいるように見える。それは皆から頼りにされるという、今までにない経験が嬉しかったからだろう。そんな大石と孝証が組んで幕府が仕掛けた茶番劇をひっくり返すのは、実に爽快である。二人ともふざけているのではなく、それぞれの藩の思いを一身に背負って、自分を犠牲にする覚悟でやっているから真実味がある。
「忠臣蔵」のシリアスな精神は活かしつつ、人間的な面白さで解釈し直したコメディになった。ムロツヨシは異彩を放っているし、その他の人物の演技も生きている良い作品になった。

ガバチョ