「殺しと子育ての両立」キル・ボクスン sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
殺しと子育ての両立
冒頭のヤクザとの対決シーンから面食らってしまった。
ヤクザの喋る片言の日本語と日本刀がそう感じさせるのだろうが、何となくタランティーノ監督の『キル・ビル』を思い出した。
美しく、強く、カッコいい殺し屋が主人公であるという共通点もあり。
キル・ボクスンは一目置かれる殺し屋であると同時に、思春期の娘に手を焼く母親でもある。
彼女は暗殺を合法的に請け負う組織に身を置いているのだが、娘のジェヨンのことを考えて身を引こうと考えている。
彼女はジェヨンには自分が殺し屋であることを一切悟らせないようにしているが、血の宿命なのか時折ジェヨンはサイコパスな一面を見せる。
殺し屋としては完全無欠の彼女だが、繊細で掴み所のないジェヨンに対してはオロオロしたりヒステリックになったりする。
そのギャップが面白かった。
暗殺のことを作品と称する組織がとても不気味に感じられた。
未成年は殺さない、会社の請け負った暗殺は絶対に遂行すること。
規則を破ったものに課せられる罰が何なのかは自ずと察せられる。
しかしボクスンは規則を破って暗殺を失敗に見せかけて遂行しようとしなかった。
それでも組織の代表ミンギュは彼女の言い分を聞き入れ、彼女を手元に置こうとする。
二人の組織の掟を越えた絆の理由は後に明かされる。
ただミンギュの妹で組織の理事であるミニは、規則を破ったボクスンを始末しようとする。
組織から追われるようになったボクスンは、娘との生活を守るため、ケジメをつけるために戦いに挑む。
非現実的な設定だが、なぜか韓国映画で描かれる殺し屋はとても説得力がある。
この空気感は日本では作られないだろう。
ボクスンを慕いながらも金と地位のために彼女を殺そうとする同業者や、ボクスンに憧れる実習生のヨンジの姿が哀れだった。
チョン・ドヨンとソル・ギョングは韓国の俳優の中ではレジェンドクラスの上手さ。
ストーリーに物足りない部分もあるが、改めて韓国映画の底力に感心させられた。