「思春期症候群がストレートに描かれ無い青ブタ作品」青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない とおりすがりのものさんの映画レビュー(感想・評価)
思春期症候群がストレートに描かれ無い青ブタ作品
青春ブタ野郎といえば思春期症候群という、ややオカルトやSFの世界に近いような他人格と入れ替わったり、物理的に体そのものが幼児化したりする内容が多いのですが、このお話はストレートな形での思春期症候群は登場しません。
話の内容としては、梓川かえで(牛の格好をしている引きこもりのひらがなの妹)が外に出たことをきっかけに、本来の梓川花楓(漢字のかえで)になった5巻の「青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない」の続編に当たる位置づけになっています。原作でいうと、第8巻が映画化された事になります。
ただこの巻数から分かるように、青ブタはアニメ化という観点でみると少し時系列がややこしくなっていて、今回の映画は5巻→8巻に飛んでいますので、5巻(テレビシリーズのラストあたり)を思い出しながら見たほうがしっくりくる内容になっているので、記憶を巻き戻して見る必要があります。
しかも、4年前に映画化された「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」=原作6巻、7巻の内容は、水瀬いのりさん演じる牧之原翔子がメインヒロインであり、かつ、内容も咲太との恋愛模様も含めた上でのどストレートな思春期症候群のお話であり、更にものすごく切ない話だった事もあって大ヒットをしたわけですが、そのイメージで見に行くと、少し肩透かしを食らうかもしれません。
・・・とここまで書くと酷評のようにみえてしまいますが、この作品はこの作品なりの良い所が沢山あって、特に、咲太と花楓の兄妹愛(家族愛)がこれでもかというくらい繊細に描かれていたり、そんな兄妹を支える桜島麻衣、豊浜のどか、そして今回のシナリオで重要な役割である広川卯月が作品に色や変化を加える事で、繊細でクオリティの高い家族ドラマに仕上がっています。
咲太と花楓の関係性で一例をあげれば、花楓が受験の朝家を出る前に、咲太がタコさんウインナーとスクランブルエッグの朝食、そしてお弁当まで持たせて受験に送りだしたシーンは、何気ない日常シーンでありながらも繊細な間合と感情表現でこれでもかという位に刺さる映像になっていますし、妹を思い、咲太がこっそり通信制高校の進路説明会に参加をするシーンからは咲太のあふれる愛情が伝わってきて、そんな咲太の頑張りに答えるように花楓の頑張りシーンが加わる事で、ホロリと泣けるシーンに繋がっていくシナリオもちゃんと組み込まれています。
そしてもう1つ大切な事は、本作は今後の青ブタを描く上で大切な転換点の話が描かれているという点です。これまでも描かれてはいましたが、さらなる梓川家の家庭事情の深掘りだったり、作品の進行上、今のままでは扱いが難しくなる花楓に、しっかりと決着をつける重要な作品である事に加え、牧之原翔子に変わるメインヒロインとして、広川卯月を登場させ活躍させたという意味でも今後に繋がる流れを生んでいて、そこに冒頭に描いたような感動的なシーンや共感できる家族愛もしっかり描かれている内容だったので、自分は相当楽しめました。
ですが、これまでの青ブタのように、SFやオカルトな雰囲気が好きな方にとっては共感できる部分がすくなく、もしかするとマイナス評価になる可能性もある作品である事は事実なので、賛否ある作品だろうなとは感じました。
これ以上は生生しいネタバレになるのでさけますが、このようなベースを頭に入れた上で映画を見に行く事をおすすめいたします。