劇場公開日 2023年8月11日

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「揺らぐアイデンティティーとゴールのない浮遊感」ソウルに帰る カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5揺らぐアイデンティティーとゴールのない浮遊感

2023年9月7日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

朝鮮戦争中に養子縁組でフランスに渡った女性を主人公にした若いカンボジア系フランス人監督の作品でとても新鮮だった。ただし、朝鮮戦争中に幼児だった主人公がスマホの時代に20代から30代なのは合わないんだけど、韓国の歌謡曲やまるでグループサウンズ時代のような曲や老舗ジャズ喫茶のようなアナログレコードを並べるレトロでヴィンテージな店の雰囲気は一昔前のもので、つい受け入れてしまった。主人公のよるべのない不安定な内面をコミカルかつ暴力的に描いており、主演のパク・ジミンがそれをじつにリアルに生き生きと体現している。一味違う映画で期待を大いに裏切ってくれた。
主演のフレディ(ヨニ)役のパクジミンは俳優ではなく、ビジュアルアーティストとのこと。驚きだ。さらにゲストハウスの管理人でフランス語に堪能でフレディに親切なテナ役のグカ・ハンは実は小説家で俳優ではない。こっちも驚き。
パクジミンの無言の時の何かを企んでいるような不愉快そうな表情がすごくよい。そして、変化にとんだ髪型や衣装でガラッと雰囲気が変わるのもプロの俳優顔負け。
最初はふっくらとした江口のりこあるいは安藤さくらみたいだったのが、2年後にはゆりやんレトリバーのような厚かましさ全開に、そして最後は元NHKアナの有働由美子似に変化。四角い顔なのに魅せてくれる。オークワフィナより断然いい。しかし、彼女はこの映画でおしまいで、俳優にはならないだろうと思う。
バックボーンやアイデンティティーに揺らぐ主人公が天真爛漫で、性的にもハイパー(バイだったり、マッチングアプリで武器商のフランスおやじをひっかける)なのは過剰適応ともとれる。監督の人間観察力の高さもなかなか。
とても印象的だったのは、実の父親の家の台所で再婚相手の女性の背中に会ったこともない実母の姿を見て、自分でも戸惑っているフレディ(ヨニ)のシーン。同性の親に自分のアイデンティティーを求める気持ちが痛々しく、ドキリとさせられた。最後まで母親に執着するフレディが父親の作ったつたない曲にそっくりのピアノの譜面を弾いてみるラストは新たなはじまり。彼女は放浪を続ける他にはないように思う。

カールⅢ世
Bacchusさんのコメント
2023年9月7日

そこに共感してくれる方がいるのは嬉しいですよねw

Bacchus
talismanさんのコメント
2023年9月7日

パク・ジミン、本当に魅力的でした。ゲストハウスの管理人役の人も女優でなく小説家とは!知りませんでした。

talisman