劇場公開日 2023年3月11日

「たった1人世界の外で20年」REVOLUTION+1 とびこがれさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5たった1人世界の外で20年

2023年4月6日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

 2022年7月8日に大和西大寺駅で起きた安倍晋三銃撃事件は、もはや忘れ去られたように思います。あの日からしばらく、日本を覆った緊張感はやがて、菅義偉の訥々とした語り、統一教会に対し積極的に発言するひろゆき、エリザベス女王の国葬と安倍元首相の国葬儀、12月には救済に関する新法ができて、それからなんでしょうか、フィリピンの特殊詐欺グループの話が続いたかと思えば侍ジャパンのバットで世間はリセットされましたね。アントニオ猪木、松本零士、坂本龍一、コンチネンタルホテルのフロントマンが亡くなり、宮台真司は暴漢にめった刺しされた挙げ句犯人は自殺しまたが、侍ジャパンのバットでリセットされました。まだまだいろいろありましたけどね、岸田の必勝しゃもじとか。
 当然ですが山上徹也に取材することはできないので、作り手の想像力によるところは大きいと思います。私の勝手に考えていた人物像とはまた違う感じであり、映画としてわかるようにするための嘘だとしても、首をかしげつつなるほどなと思った次第です。
 まず犯行の前に妹や隣人に犯行予告をしたことはイメージと違いました。自分の行いを誰か止めてくれ、てのは復讐劇でよくありますね。内心本当はそんなことをしても何にもならないとわかっているのに的な。
 けど山上の20年間にのぼる苦しみを思えば、その程度の自己分裂ではないと思うのです。例えば誰かの胸で思いっきり泣けばガスが抜けるようなものではなかった、実際劇中でも。まだ誰かと通じあい幸せになれるかもという期待、誰か止めてくれよとすがる微かな期待は完全に失われた闇のなかにいたと思います。
 誰かに声を荒げたり、ブルーハーツの一節を歌ったり、そんなことは彼にはできなかったのではないでしょうか。
 世界はいろんな空模様がある。だがその外の彼の世界はずっと雨だった。もはや別の時空で。私に言わせると、雨は飲めるし潤いをもたらすし、何より運動量をもっている。山上の世界はきっともっと、
 ただ凪のような無音の世界にいる。自分以外の世界が自分を全く意に介することなく回っている。自分はそれを外から20年も眺めている。かつて幼い頃入れてもらいたかった世界に、やがて一切期待できなくなり、ただ一人世界の外で銃を自作する。そして、ここだというタイミングで放った銃弾に穿てないものはなかったでしょうね。という想像、いや、共感。

とびこがれ