「教科書的だけど綺麗な脚本」映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア) Croさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5教科書的だけど綺麗な脚本

2024年3月6日
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鑑賞方法:VOD

正直ドラえもん映画はオリジナル作品だとかなりハズレが多いイメージだけど、その作品群と比べると脚本は綺麗にまとまっていて、伏線回収も子供が見る分に難しすぎず「あぁ〜!」となるかなり丁度いいラインで設定されていて完璧だと思う

脚本自体も破綻なく最後まで進んでくれるだけでも安心。

ただ、ここからは一個人の好き嫌いの範疇にはなるけど、なんというか「こういうテーマの為に映画を作ろう!」が先行し過ぎていて、その為に舞台が用意されて、その為に舞台装置であるキャラが動いて……という感覚が、どうも近年のあらゆる作品に付き纏っているように感じる

ドラえもん映画は確かに鉄人兵団、海底鬼岩城なんかや雲の王国は深いメッセージ性があるけれど、その為に作品が動いてるような感覚には陥らない。というのも、何がどうあっても"のび太の冒険"という大前提が忘れられていないからである。今回の作品においても、のび太が月型のユートピアを見つけて探す、という冒険があるけれど、ユートピアに蔓延る闇の演出の方ばかりフューチャーされる為に冒険感はかなり薄い

冒険9割、そしてその冒険のオマケ的にメッセージがちょこっと。昔のドラえもんの懐古厨がしたい訳ではなく、あらゆる作品に言いたい事だけど「物語は起承転結でね!」「なにか伝えたいテーマがあるならそれを軸に」みたいな、脚本の教科書的なものに則って作られた作品が多すぎるように感じる

テーマでは「ダメなところも含めて自分らしさ」で、それを肯定してくれるような作りになってるけど、脚本の作りはどうも前にならえ的に感じる。凄く綺麗な脚本ではあるので(最後の自爆は絶対いらんかったと思うけどな。スモールライトでゴミ袋小さくしろやって感じだったし、お涙頂戴感すごい)、ドラえもん映画を担うってなると変にコケる訳にもいかないししっかりし過ぎなくらいの脚本にせざるを得ないんだろうな、とも思う

だからこそ、テーマなんかどうでもよくて「こういうとこをのび太が冒険する画が作りたい!」とか、「こんな風に絶望的な状況に陥ったドラえもん達を描きたい」みたいな、創作側の性癖全開の作品でいいんだよ!と声を大にして言いたいわけだ。魔界大冒険なんかまさにそんな感じで、あれこそドラえもん映画の真髄だとすら思う。

コケる訳にはいかない大きな作品になり過ぎたが故のジレンマ、ということで。まぁちゃんとした作りで作画も綺麗なので、個人の趣向抜きにしたら星4はあってもいいかなと言った感じです

Cro