劇場公開日 2022年7月22日

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「忌々しい歴史を忘れないために/(参考)日独の考え方の違いについて」アウシュヴィッツのチャンピオン yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0忌々しい歴史を忘れないために/(参考)日独の考え方の違いについて

2022年7月30日
PCから投稿

今年221本目(合計497本目/今月(2022年7月度)33本目)。

日本では7~8月によく放映される、ナチスドイツの忌々しい歴史を風化させないための映画がよく「固まって」放映されることがありますが、本作品もその一つです。
ここの特集などにあるように、史実をもとにしているため、あることないこと書けないこともあります。

ナチスのこの収容政策といえばユダヤ人が真っ先に挙げられますが、身体障害者や牧師(牧師についてはちらっと映画でも出る。宗教関係者を余りよく思っていなかったらしい)も犠牲にあったことも事実です。ただ、それら含めて全て「平等に」描こうと思うと10時間コースであり、何か一つに絞ろうと思うと難しいところです。

また、映画内をよくみるとわかりますが、当時のドイツ(収容所内)のドイツ側の思想も必ずしも一律ではなかったようで、中にはヒトラーに懐疑的ないし反対していたものもいたようです。それが前提になっているセリフもあります(他の方が詳しく書かれていた通り)。

もう戦後何十年もたつこの文化(および、同じく敗戦国である日本、イタリアがとった極悪非道の政策)は未来永劫忘れてはいけないし、次の世代に伝えていかなければ…と気を強く思ったところです。

採点上特に差し引く要素はないので、フルスコアにしています。

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(参考/日独の考え方の違い)

 ・ 同じ敗戦国のこの2つの国ですが、表現・言論の自由という観点で大きく違います。
 ドイツはもちろん、ドイツのこの被害にあった国の中には憲法や法律のレベルで「ナチスドイツを英雄視するような著書・映画は許されない」という国があり、違反者には罰金も取られます。これを「表現の自由の侵害」と見るかは微妙ですが、余りにも支離滅裂であったことも事実です。

 翻って日本を見ると、日本も敗戦国で敗戦後、日本国憲法が定められ、そこで思想良心の自由、表現・言論の自由は最大限尊重されるようになりました。基本的人権の中でも「表現・言論の自由」はその「王様」と言われるほど強く保護されます。それは、「表現・言論を戦わせてより健全な民主主義国家を作る」という思想に根差したものです。
しかしこれも絶対無制限でなく、それに名を借りたようなものは個別に罰せられます。代表例は「わいせつ表現」「名誉棄損にあたるような行為」「個人情報の勝手な書き込み」といった類型で、これらは戦後の判例で確立されたもので、現在もそれにいたります。

 実は日本では「表現・言論の自由に対する例外的な規制」は上記程度しか判例で確立されていないため、「天皇制反対」や「憲法9条反対」、さらにはこの映画の通り「ナチス万歳」という表現も基本的には禁止できません(もちろん、こうした評価サイトが個別に「いい加減にしろ」ということで制約を入れることはある。これは私人間の話)。

 つまり、国として反省するドイツが一定の表現の自由に制限をかけているのとは対照的に、日本は「他を害するものは許されない」という立場にたつのであり、それはその通りなので、極論、先の第二次世界大戦で日本を擁護するような発言も基本的には自由です。

 日本とドイツは同じ敗戦国だし、民法(日本の民法はドイツ民法をまねて作られています)や憲法などかなりの部分が似ますが(「英米法」と「大陸法」の概念)、細かいところで差があります。その最たる例が「表現の自由の規制の度合い」です。

yukispica