劇場公開日 2023年2月17日

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「語り口の巧さで魅せる映画。何かの映画を思い起こさせると観ている間ずっと思っていたけど『めまい』だね、これは。」別れる決心 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0語り口の巧さで魅せる映画。何かの映画を思い起こさせると観ている間ずっと思っていたけど『めまい』だね、これは。

2023年2月18日
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鑑賞方法:映画館

①ちょっと安い邦題(渡辺淳一の小説にありそうな題名)(二人は付き合っていたり結婚していたわけではないのだから、“別れる”よりも“離れる”“去る”にした方がよくはないか、韓国語の原題はどうかわからないが)が勿体ないような、巧緻な演出と斬新なカメラワークとで最後まで引っ張っていく監督の力量は大したものである。
こんなに凝った演出の映画は、最近の邦画はもとより洋画でもあまりお目にかからないくらい。
②サスペンスフルな展開の中にユーモアを忍ばせるところもヒッチコックの映画の幾つかと通底している。
台詞だけを追っていると混乱してしまうかも知れない。何よりカメラで語っている映画だから。
彼女が中国人で肝心なところは中国語で話し翻訳アプリで韓国語に変換させているのも細かい演出。私も翻訳の仕事をしているが、翻訳アプリが正確な翻訳をするとは限らない。ましてや言葉の裏に込められた感情は翻訳してくれない。
③韓国の捜査事情は知らないが、刑事と被疑者とがあんなに近い距離で良いのか、とは思った。
刑事が被疑者に惹かれ、それ故に見逃すというまではよくある話と云える。
これで終わりなら大した物語ではないな、と思ったらここから捻りが入る。
④イポの海鮮物市場でバッタリ出会ってしまう二組の夫婦。ソン・ソレの筋トレオタクみたいな旦那と、ヘジュンの理系女子で健康オタクの奥さんとが社交辞令を交わしている横で、ソン・ソレとヘジュンとは言葉少なに話すだけで互いに見つめ合う。表面的には二組の夫婦の単なる偶然の邂逅にしか見えないが、内面では単なるどころではない大嵐が起きている。ほぼ映像のみでそれを伝える心理的にスリリングな映画中盤の山。そして同時にこれが物語のターニングポイントとなる。

もーさん