劇場公開日 2022年11月25日

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「中国の伝統的な家族観を批判」シスター 夏のわかれ道 モーパッサンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0中国の伝統的な家族観を批判

2023年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

ヒロイン、アン・ラン(チャン・ツィフォン)は北京の医学大学を志望していたが、「女の子は家族を世話するもの」と考える両親に、願書を勝手に地元大学の看護学部に書き換えられた。以来、両親とは距離をおき、今は看護師として働きながら、独力で北京の医大進学に向けて、受験勉強し、学費を貯めている。ところが、両親の事故死を機に、会ったこともない幼い弟が現れ、親族から「姉だから」という理由で養育を押しつけられる。待望の男の子として甘やかされ、わがまま放題に育った弟は、目障りで足手まといでしかない。アン・ランは弟を養子に出そうとするが、「女は家族に尽くすもの」と信じる叔母や、博打好きで遺産を狙う叔父が絡み、弟と心ならず同居を続けるうちに、季節は夏へと変わる。弟との間に少しずつ心が通い合うようになったアン・ランは、夢の実現か弟かの選択に葛藤する。その選択は、思いがけない形で動く。
 アン・ランの表情はいつも硬い。自己実現を阻む両親や親族や社会に対する怒りを秘めている。その怒りは、始め弟にも向いている。しかし、時がたつにつれ、クスリという笑いに始まる情愛の小さな流れが、巨大な怒りの底で勢いを増すさまに心を打たれる。その流れは、敵に見えていた叔母や叔父への見方も変える。「男の子が家を継ぎ、女の子はそれを支える」という中国の伝統的な家族観を批判しつつ、人間への信頼を失わない姿勢に救われる。
 ただ、ラストシーンにはやや違和感がある。別人が演出したような感じがする。

モーパッサン