劇場公開日 2023年4月7日

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「特殊メイクを施しても尚、輝く個性」ザ・ホエール 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0特殊メイクを施しても尚、輝く個性

2023年4月9日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

最愛の恋人を亡くした喪失感が過食症を招き、272キロにまで膨張した巨体をほぼ一日中、カウチから動かそうとしない大学教授。この設定はかつてブレンダン・フレイザーが『ゴッド・アンド・モンスター』(00)で演じた役柄の逆バージョンだ。あの時、彼が演じる庭師はイアン・マッケラン扮する引退した映画監督の前に現れて、枯渇したクリエイティビティを刺激したのだった。

翻って、この『ザ・ホエール』の主人公、チャーリーが住む家には身の回りの世話をする看護師や離婚した妻や疎遠だった娘やピザ配達人たちがやって来るが、みんなそれぞれに悩みを抱えていてチャーリーの心を癒してはくれない。むしろ、彼らはチャーリーに癒しを求めているようなのだ。

ここで、フレイザーが文字通りオスカー級の名演を披露する。分厚いファットスーツやメイクに囲われていながら、その瞳から隠しようのない優しさが零れ落ちて、劇中の訪問者と、観客までも温かく包み込むのだ。特殊メイクを施しても尚、俳優の個性が輝く好例だと思う。

清藤秀人