劇場公開日 2022年12月16日

「ケイコの勝利」ケイコ 目を澄ませて inosan009さんの映画レビュー(感想・評価)

ケイコの勝利

2024年4月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

 生まれつきの聴覚障がいのため耳が全く聞こえないケイコ。ホテルの下働きをしながらボクシングジムに通い、プロのリングにも立つ。だがこれは、そんな不遇のボクサーのサクセス・ストーリーではない。むしろ挫折の物語だ。

 彼女はなぜ闘うのか。勝とうが負けようがリングに立ち、ジムで汗を流す。そのことだけに命の輝きを求めようとしているかのようだ。荒川あたりの河川敷で共にシャドウボクシングに励むケイコとジムの会長、岸井ゆきのと三浦友和が、まるで『ミリオンダラー・ベイビー』のイーストウッドとヒラリー・スワンクに見えてくる。会長に甘えるような岸井ゆきのの楽しそうな表情が印象的だ。

 試合に負けた数日後、ケイコは偶然出会った相手ボクサーからリスペクトに満ちた挨拶を受ける。彼女の勝利の瞬間だ。映画は静かに主張する。試合に勝つことだけが勝利じゃない、時に挫けそうになる自分に打ち勝ってこそ、真の勝利があるのだと。

inosan009