劇場公開日 2022年1月28日

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「素晴らしいドキュメンタリー」名付けようのない踊り pekeさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0素晴らしいドキュメンタリー

2022年3月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

密度の濃い素晴らしいドキュメンタリー作品だった。
撮影、脚本、編集、音楽など、それぞれの要素がバランス良く機能していた。
構成も、アニメーション(これも素敵だった)を挟み込んだりと、観客を飽きさせないような様々な工夫がなされていて、さすが劇映画の監督が撮ったドキュメンタリーだなと思った。

以前、映画『HOKUSAI』の中で田中泯の踊りを観たが、彼のオリジナルの踊り——というか身体表現、すなわち「場踊り」を観るのは初めてだった。2時間、僕の目はスクリーンに釘づけになった。田中泯という、強固な意志を持ったひとりの人間から放たれた鋭い矢は、僕の弛緩した精神にピシピシ当たった。

実を言うと、僕は田中泯という役者が嫌いだった。とっつきにくいような、気難しそうな、それに少しウサン臭そうなところもあるし……と。要するに、彼が、ほかの役者にはない何か暗く固い、名状しがたい雰囲気、まさしく名付けようのない雰囲気を持っているように感じられたからだ。

本作によって、僕は、彼が醸し出すその独特の雰囲気がどうやってつくられたのかということを、少し垣間見ることができた(やはりその土台には、土方巽という大きな存在があったのか、とか)。

そして気が付けば、僕は田中泯という役者を、いや、そこを通り抜けて、田中泯という人間を、好きになっていた。
泯さんのことをカッコ悪いと言う人はいないだろう、泯さんのようにカッコいいジイさんが増えれば日本はもっとマシな国になるはずだ、と思うまでになっていた。

活を入れられたような気がした。カンフル剤を注入されたような気がした。野良仕事でつくったカラダ、美しい~。

アルシオーネの『愛のサンバは永遠に』が胸に響きます。

観てよかった。

peke