劇場公開日 2022年1月14日

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「生き方が共鳴して互いに共生感を感じられる相手」フタリノセカイ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5生き方が共鳴して互いに共生感を感じられる相手

2022年1月18日
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鑑賞方法:映画館

 俳優陣がやや経験不足で演技が熟(こな)れていないように感じたのと、登場人物の見た目の経年変化が一切考慮されていない点で、作品としての評価はあまり高くできない。しかし物語としては面白い。男女がくっついたり離れたりするのはよくある話だが、それがトランスジェンダーのカップルとなると、話が複雑になると同時に、社会性も帯びる。

 第一次性徴の性別が異なるカップルであれば、トランスジェンダー同士でも生殖は可能だが、もともとが同性のカップルは子供を作ることができない。子供がいらないのであれば問題ないが、子供を欲するカップルの場合はいろいろな努力が必要になる。ノーマルなカップルでも不妊に悩む場合があるのと同じだ。

 誰でも将来は不安だ。トランスジェンダーであれば尚更だろう。将来のことを考えて節約し、預金している人も多いと思う。欲しい物があってもなるべく買わないで我慢する。本作品のユイがそうだ。しかしシンヤは違う。将来も考えるが、いまの時間を充実させることも考える。掃除機を買い、ユイのための買い物もする。
 ユイはシンヤよりも不安だ。それにセックスの不満もある。子供をどうするか。将来の願いを叶えようとすれば、相当な金がかかるのは誰にでもわかる。何がなんでも節約して金を貯めなければならない。だから最低限の生活必需品でないものに金を使うシンヤの能天気が許せない。ふたりは金の使い方の違いから、人生の方向性の乖離を自覚することになる。

 結論から言うと、シンヤが正しいと思う。人生は不確定要素が満載で、10分後に大震災が起きないとも限らない。帰宅したら火事で家がなくなっているかもしれない。綿密な計画を立てても、そのとおりに進むことはまずない。順風満帆な人生などというものは、振り返ったときに初めてそう言えるのであって、未来に順風満帆な人生が約束されることはあり得ない。
 金を貯めることに執着して、いまを我慢し続けることは精神衛生上もよくない。金だけでなく時間を節約することも大事だ。掃除機や洗濯機を買って時間と労力の節約になるのなら、買ったほうがいい。出来た時間で仕事をすれば、すぐに元が取れるし、費用対効果も十分である。ユイがシンヤの考え方を理解するまでに相当な時間が必要だった。

 金は必要なことに使うべきだ。何が必要で何が必要でないかは人それぞれでいい。それが生き方というものだ。ユイとシンヤが互いに惹かれ合う理由は不明だが、生き方が共鳴して互いに共生感を感じられる相手と一緒なら、コンプレックスや疎外感から救われる時間もあるだろう。それが多分「フタリノセカイ」なのだと思う。

耶馬英彦