劇場公開日 2021年12月3日

「【旅立ち】」The Hand of God ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0【旅立ち】

2021年12月10日
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北イタリアを旅していると、イタリアを南北に分け、独立しようというデモ(とは言っても、緩いやつ)にたまに出くわすことがある。

勤勉で産業の中心である北イタリアは、もうこれ以上、怠惰で依存的な南イタリアの面倒は見切れないというのが、その主張だ。

イタリアは南北の格差は大きく、産業や観光でも主要な都市は圧倒的に北に多く、欧州各国との地域的な利便性も高い。

だが、実は、ローマは”南”だ。

ローマは、歴史的にも文化的にもイタリアの中心だ。これを分離独立とは、なんだと思う人もいると思うけど、まあ、観光に依存ばかりで、政治的なリーダーシップはなく、混乱の極みで、それでも、常に宗教と文化の中心然としているローマへのやっかみもあるのだと考えたりもする。

さて、前置きが長くなりましたが、この「The Hand of God」は、パオロ・ソレンティーノの自伝的作品と言われていて、ファビエットがナポリを離れローマを目指すまでの、青春の、ほんの短い期間を綴った物語だ 。

もし、できたら、パオロ・ソレンティーノの前作「グレート・ビューティー」を観られたら、この作品へのつながりも感じられるように思う。

(以下ネタバレ)

この映画タイトルは、ナポリに加入したマラドーナの手に触れたゴールを引用したものだが、物語を通して観ると、ファビエットが最終的にローマを目指したように、神の手に導かれるように、人は決断をすることがあるのだと示唆しているような気がする。

地方から、何か目標をもって東京を目指すというのも実は同じではないかと思う。

だが、この作品は、ファビエットが抱えた葛藤と云うより、様々な出来事を通して、ナポリに対するアイデンティティや、家族への愛情、ほのかな恋心は持ちながらも、次第にナポリを離れようとする、微妙に傾いていく気持ちの変化を、美しいナポリの風景の中で、時には滑稽に、様々な出来事と併せて、きめ細やかに捉えているように思うのだ。

閉塞感、パトリツィアへの恋心、マラドーナ、事件、両親の死、親戚の対立、舞台への興味、兄の挫折、ユリア(?)への恋心、変化を求めようとしない演出家、精神病院のパトリツィア......

人が故郷を離れようとする理由は様々だ。

必ずしも大いなる目標があるわけではないし、嫌気がさす場合もあるだろう。

この作品は、それでも良いのだと肯定しているように思えるのだ。

”東京で何するんだよ” ”田舎だって出来ることは沢山あるだろう” ”家族はどうするの”

実は、ローマや東京だけではなく、どこかを目指すことは世界中似ていることなのかもしれない。

これまでも、多くの人はそうやって、やってきたのだ。

きっとこれからもそうなのだ。

「The Hand of God」は、こうした人々への賛歌でもあり、それを躊躇ったり、恥じたりすることはないのだと語りかけているような気がする。

決して、オリジンを捨てたわけではない。

全ては、神の手に導かれたのだから。

ワンコ