劇場公開日 2021年11月19日

「官能性と精神性の混濁が希薄でサスペンス風味も乏しく統一感のない作品」パワー・オブ・ザ・ドッグ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5官能性と精神性の混濁が希薄でサスペンス風味も乏しく統一感のない作品

2024年1月29日
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鑑賞方法:VOD

『ピアノ・レッスン』とか『ある貴婦人の肖像』とか、カンピオン作品は官能性と精神性を混濁させた作風が好きなので、今回も期待して観た。

本作も官能性、特に男性フェロモンには事欠かず、精神性という面でもフィルのブロンコ・ヘンリー崇拝やフィルとピーターとの虚実混淆とした交流等がある。

とはいえ本作はわかりやす過ぎる。官能性と精神性の濃度が希薄なうえ、それらがはっきり区別され、単純なサスペンス映画と化している。ここには『ピアノ』のような言葉に出来ない雰囲気の素晴らしさ、濃密な何かが見られないのである。

その割にサスペンスの要素をぎりぎり塗り固めていくのではないし、モンタナの美しい自然、林に囲まれた静謐で小さな池やなだらかな丘陵の曲線を描くことで、逆に作品の統一感を殺ぎサスペンス風味を希薄にしている。

カンピオンは何を描きたかったんだろう? インタビューを読むと、「原作はトーマス・サベージが書いた同名小説。じわじわとした恐ろしさが迫り、観終わった後も強い余韻が残る優れた心理スリラーだ。原作小説を読んだ後、カンピオンも同じように感じたと、米ロサンゼルスで行われた会見で彼女は語った」というが、恐怖の前振りもろくになく、如何せんまったく怖くない。

また、キャラクター描出は相変わらず巧みだが、ジョージやローズは何のためにいるのかわからないくらい存在感が乏しい。
「読み終わった後も登場人物やテーマやディテールについて、いろいろ思い起こしては考えにふけってしまった。そのうちに、こんなに気に入っているのだから、自分で映画にするべきではないかと思うようになった」という。
意余って言葉足らず…か。いや、意そのものが足りなかったのではないか?

徒然草枕