劇場公開日 2022年8月6日

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「音の映画であると同時に、足と手をめぐる映画」裸足で鳴らしてみせろ cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5音の映画であると同時に、足と手をめぐる映画

2022年10月11日
iPhoneアプリから投稿

 PFFスカラシップ作品を、久しぶりに観た気がする。躍動しエネルギッシュである反面、諸々ちょっとぎこちない。けれども、作品のぎこちなさが、主役のふたりのぎこちなさと相まって、絶妙な不穏さ、緊張感を生む。目を背けたくなるのに、見つめずにいられない。そんなざわつきを、ずっと感じていた。
 父の廃品回収業を手伝いながら、先が見えない日々をやり過ごしているナオミ。ふとしたきっかけから盲目の養母・みどりと暮らすマキと親しくなり、彼女の願いである世界旅行を、マキと共に果たすことになる。
 マキは謎に包まれている。有り体にいえば、嘘の匂いがまとわりついている。そして、みどりも、又そうだ。旅行の資金だと彼らに通帳を託すが、彼女の言うような額は残されていない。2人は身の回りの場所や物から、旅の音を作って彼女に届ける。彼女はテープの真実に気付いているのではないか。しかし、そんな様子は全く見せず、彼らの音に眼を細める。彼女の語る思い出は湖のように澄んでいるが、沼のように底が見えない。
 マキに「別の泳ぎ方」があると教えられ、ためらいながらもマキ(の世界)に惹かれていくナオミ。彼は、父親の束縛から逃れる決心をするが阻まれ、もがいた末に一線を超えてしまう。それが皮肉にも、元いた世界に彼を引き戻す結果となる。
 ナオミを引き戻すのは、女友達の手。一方マキとの日々は、彼らの足が印象的に描写されている。砂を踏みしめる足、ばたつく足、絡み合う足。(ちなみに、残されたマキは、手を負傷している。)足は本人の望むところへ移動させてくれるが、他者を移動させることは出来ない。手は他者との繋がりを生むが、それだけではどこにも行けないのだ。
 投げ出されたマキの足に、思いもよらない音が被る。ナオミは、自分の足でどこに向かうのだろう。暴力的なのに、悲しい幕切れ。ちょっと呆然としながら帰路についた。あの足と大きすぎる音が、脳裡にこびりついて離れない。工藤監督の次の作品が、待ち遠しい。

cma