劇場公開日 2021年9月3日

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「消滅した伝統文化の貴重な記録にならないことを祈らずにはいられない」くじらびと カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0消滅した伝統文化の貴重な記録にならないことを祈らずにはいられない

2021年9月17日
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鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

インドネシアの小さな入り江の村での伝統的な鯨漁を題材にしたドキュメンタリー映画。村人との交流に30年をかけた大作。監督は国際的な写真家の石川梵氏。給食で月に2回は鯨の竜田揚げを食べた世代ですね。
水中映像、ドローンを使った空中映像と船の上からの映像と音声をあわせた鯨漁のシーンはものすごい迫力でした。暴れる鯨が舟にぶつかる鈍い低音が本当に恐ろしかった。
人間と鯨、両方への慈愛を感じられる映画。何を感じて、どう思うかは人それぞれでしょうが、できるだけ沢山のメッセージを汲み取りたいと思いました。
私は最初の方の村の入り江のドローンの映像で20年前の朝ドラ、ええにょぼ(戸田菜穂、的場浩司)の舞台にもなった丹後半島の船屋の集落、伊根を思い出しました。江戸時代以前から木造船による鯨漁が行われていたところです。伊根の郷土資料によると270年間で捕ったクジラは350頭です。湾内に入り込んだクジラを総勢100隻の舟で捕ったそうです。クジラ銛での漁。この映画との違いはモリで刺されて弱ったクジラを網で包囲して取り込んだこと。やはり、網や綱に身体が絡んで死んだ漁師もたくさんいたらしいです。捕ったクジラは神社でちゃんと供養しています。
クジラが捕れると藩の役人が来て、クジラの長さに応じた年貢を課して行ったそうです。村人は測定する巻き尺に細工をして、少しでも多く年貢を取られないようにしました。お役人も分かっていて、見逃したそうです。この地区は年貢を鰤で払い、自分たちはへしこ(鯖の塩漬け)を食べて耐えていました。のんべのかたはアテに一杯やったこともあるかと思いますが、本当にしょっぱい。
そのほかにも鯨やイルカ漁をしていたところは昔から日本にはたくさんあったと思います。
この映画の村落はひとつの共同体です。船の先端で銛(モリ)を突く男(ラマファ)は特別な存在で、子供から憧れの的、ヒーロー。1500人の村人みんなから頼られていますが、命の危険と常に背中合わせ。八丈島や三宅島などでのカジキマグロのつきんぼ漁で船の先端で銛を撃つ男も憧れの的でした。古くから世界中にある伝統漁法です。
クジラを絶滅の危機に追い込んだ大型船団での捕鯨は油を取ることが主目的の商業捕鯨。そこには命に対する敬意なんかなかったでしょう。アジアの共生的文化は本当に豊かです。ごはんの前にお祈りの歌を歌いたがるエーメンの妹イナがとても可愛い。仲のいい家族にもたくさん癒される映画。マンタ漁で命を落としたベンジャミン。喪が明けるまで皆漁に出ない。村人全部が家族のよう。なにより「和」を重んじる考えが浸透している。弱いものに分け与えることになんの不自然さもない。素晴らしいです。この村には警察なんかいらないなぁと思いました。謙虚に自然の恵みに感謝して生きている彼らを心から敬います。「海の番犬」とみずから名乗る反捕鯨団体は自分達が狭量で片寄った行動を高慢な態度で行ってきたことを心から恥じてほしい。多様な生き方や文化を否定することのしっぺ返しは回り回ってやって来るはずです。

カールⅢ世
ワンコさんのコメント
2021年9月17日

こんにちは、
その通りだと思います。
感謝して食べる、重要ですよね。
因みに、僕は、環境負荷が大きいと知ってから、牛豚肉を食べる量をかなり減らしました😁

ワンコ