劇場公開日 2023年2月10日

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「旅は道連れ世は情け」コンパートメント No.6 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0旅は道連れ世は情け

2024年5月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ヘイ。ヘイヘイ。
Haista vittu ハイスタ・ヴィットゥ!

=いつも むっつり顔だ
=すぐシワだらけになるぞ
=ありがとう余計なお世話よ

旅は道連れ世は情けだ。
僕も旅先で、思いもかけずに出会った人たちのことを思い出す。
汽車で、飛行機で、そして時には船で。たまたま言葉を交わしたあの人の事や、この人の事・・
珠玉の出会いがそこにあり、一生忘れられないあの人たちの言葉が、旅の最大の土産になる。

映画は、フィンランドからの留学生ラウラが、モスクワからの夜行列車の乗客となり、辺鄙な町、最北の地ムルマンスクまで「岩絵」=ペトログリフを見にいく話だ。

旅の恥は掻き捨てとか、
袖振り合うも多生の縁とか、
人生を旅に喩えることわざはたくさんある。

鉱山で働くロシア人リョーハ。
ぶきっちょで純朴で優しいのだ。
見ているこちらを度々クスクス笑わせてくれる彼。
やっとこさ打ち解けたと思った矢先、コンパートメントの6号室が、せっかくの二人状態から(お邪魔虫の登場で) 三人になってしまったあのシチュエーションの、あの可笑しみと言ったらない。

同郷同士の「フィンランド語」と「英語」で仲良く話し始めるラウラとギター弾きのお邪魔虫野郎。これは辛いものなのだ。リョーハは英語はおろか、字を書くことさえこんなに苦手だから。
僕は太平洋航路で、僕を挟んだ両隣の席の男性二人に、僕の頭上を越えてのこのお喋りをやられてしまって、もう居たたまれずに とうとう席を移動した事があったし、
ヨーロッパの夜行列車では、往路は「それ」で往生したので、帰り便は話しかけられないようにshutoutオーラを出していた。
何時間も向かい合わせで、あるいは一晩かけて、小さな車内で、笑ったり感心したり、相手の生活や自分の故郷のエピソードを喋り続けるなんて
このリスニング持続の緊張と、英会話の気詰まり感ったらひとたまりもない。
それがコンパートメントなのだ。
そもそも かつての「馬車」の構造が列車の客室の造作にそのままひきづがれている、― それが「旅ガチャ」のコンパートメントなのだ。

うざい酔っぱらいの男リョーハと、構って欲しくないラウラ。可笑しくて可哀想で、共感しきりだ。

しかし、そんな僕にも「コンパートメントで良かった」と思えた旅があった ―
学生寮時代、真夜中に散歩に出て、何だかもう限界を感じて、世界の果まで逃げたくなって、下駄履きのままで、ふと乗ってしまった長崎までのブルートレイン。
こんなにも寂しい人や傷だらけのお客を一室に乗せて、二等寝台は西国までひた走るものだ。
長崎まで逃げる人あり、逃げてきたその長崎に辛酸の過去をおして戻る人あり。
みかんを食べながらみんなで励まし合った。
手を振って別れた。

・ ・

夜汽車は旅情だ。
いつの間にか停まっている駅で、ふと目が覚めて寝台から身を乗りだし、カーテンを少し開けて外を見てみる。
鉄軌は静まり、青白い蛍光灯のホームが見える。
何処を走ってきたのか、何処に停まっているのか。わからないけれど「人はみんな孤独だ」と、旅の途中、無人駅は教えてくれるだろう。

孤独を確かめるために、そして物思いにふけるために、人は夜汽車に乗るのかもしれない。

モスクワで聞いた本の言葉。
マリリン・モンローの言葉。
おばあさんの言葉。
ラウラに必要だった言葉が、彼女の乗り換え駅ごとの“時刻表"になる。
そして、この旅の物語の“羅針盤"になっている。

その後二人はどうなったかって?
それは観てのお楽しみ。
一昔前のラブ・ストーリーが、まるで凍土の中から現れたような、胸が痛くなる恋物語だった。

鉄道映画の逸品。

きりん
きりんさんのコメント
2024年5月17日

DVDの特典映像には、監督と原作者のインタビューが収められています。
マリリン・モンローのあの言葉を受けて、伝聞によって思い込まされていた他者への評価ではなく、実際に生の人間に出会ってその人格に触れることで、新しい邂逅が生まれるというドリームを、監督は語り、夢見ます。

原作者は、原作の暴力性が割愛されて監督の優しい作品に昇華していることを評価しています。

ウクライナ戦争勃発の時節柄、たくさんの解説も検索出来ました。
戦争当事国のロシアとウクライナとNATO加盟を決議した土続きのフィンランドの関係。彼の地の人々の出会いの旅が遠のいたことで、監督の夢の落胆を慮る解説です。

3回鑑賞しました。何度観ても強く心に迫るロード・ムービーでした。

きりん
talismanさんのコメント
2024年5月13日

きりんさんの声のうわずり感が伝わってきます🎶

talisman
talismanさんのコメント
2024年5月13日

きりんさん、おはようございます。世界の果てまで逃げたくなる先が西っていいなあ。長崎に未だ行ったことないです。私は信濃追分と宮古島どまり

talisman
humさんのコメント
2024年5月13日

おはようございます。
旅にでたくなる本作、そして
きりんさんのご経験が目に浮かぶ心地よいエッセイのようなすてきなレビューでした。

hum
NOBUさんのコメント
2024年5月13日

おはようございます。
日本語で勝負しました。あとは。漢字がかなり分かったので筆談でした。では。

NOBU
きりんさんのコメント
2024年5月13日

talismanさん
おはようございます

リョーハは、せっかくの夢の起業のための貯金を、こんなに気前よく散財しちゃいましたよね。
そこ、僕は泣けました。いい奴でした。
一生ふたりは二度と会うことはないだろうけど、そしてペトログリフは結局発見できなかったけれど、ラウラは大きなものを見つけて帰ったでしょうね。

きりん
きりんさんのコメント
2024年5月13日

極寒の地なのに、なぜにこんなに温かい。
猫とお婆さんとピクルスもいい味を出してる作品でした。

きりん