劇場公開日 2021年7月10日

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「日本人として恥ずかしい(悪法の遵守は正義ではない!)」東京クルド pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0日本人として恥ずかしい(悪法の遵守は正義ではない!)

2021年8月18日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

私たちの社会には解決すべき難問が山積しているが、とりわけ入管施設の劣悪非道さについては何故か強く心に突き刺さる。
天啓のように「なんとかしなければいけない」「動かなければいけない」と、不思議な衝動に駆られるのだ。
おそらく「国家規模で世論が動けば改善に向かう問題」「苦しんでいる人々は、あまりに不当で理不尽な状況に置かれている」と感じるからだと思う。

だから、本作の上映は大いに期待していた。ついに入管施設の闇がいくらかなりとも暴かれるか?と思った。
しかし、やはりほとんど斬り込むことは出来ていなかった。いや、ここまで描いてくれただけでも、現状は精一杯なのだろう。

今、ちょうどスリランカ女性ウィシュマさんに関する報道が白熱しているが、ネットの反応を調べると「不法滞在」=「犯罪者」=「自業自得」という論調が非常に多いのだ。
それでも彼らは決して「不法入国」したわけではない!日本の入国審査はそんなに甘くない。

当然「善良な人々を日本に送り込むシステム」が存在する。外国人技能実習制度や留学生受け入れ30万人計画だ。彼らは本国の送り出し機関に75〜100万円以上を正規に払い就労ビザや留学ビザを取得し、希望を持って日本に来ている。
「送り出し機関(本国)→監理団体(日本)→受け入れ企業(日本)」というルートが出来上がっているのだ。

しかし、実際には「日本人が嫌がって避ける最底辺の仕事」に就かされ、時給300〜400円程度の低賃金で不当な長時間労働を強いられるケースが非常に多い。零細企業は監理団体に実習生1人辺り月3万円くらいの管理費を払って雇う。つまり管理団体は実習生を100人斡旋すればそれだけで毎月300万円の収入となるのだ。雇い主はその3万を当然実習生の給与から引くだろう。虐待や暴力も横行し、命の危険を感じて避難すればすぐに就労資格を失い不法滞在者となってしまう。
一度不法滞在者扱いになると再びビザは下りない。借金でがんじがらめになった彼らに帰国する術はない。
詳細は長くなるから書かないが、日本が国費で大量の強制送還などするはずがない。
2010年には、国連特別報告者が日本へ渡航する技能実習制度を「奴隷的状態」と表現し、アメリカ国務省の「人身取引年次報告書」が、「人身取引に該当する」との見解を明らかにしていたほどだ。
コロナ禍の中、2020年8月〜2021年1月の入国規制緩和で来日した人の、なんと72%が技能実習生と大学ではない専門学校の留学生だ。
日本の最底辺の労働を支える低賃金労働者として人身売買の奴隷のように送り込まれたことは明白だ。当人達は夢と希望を持って働きに或いは学びにきたつもりであろうが・・・。

本作で描かれた難民問題にしても、日本がまともに人道的な措置を施していればいいが、実際は違う。
難民認定率(%)英国47.6、ドイツ41.7、カナダ55.2、かなり少なめの国でも米国25.7、フランス14.6
それに対して日本は0.5%という異常な数字だ。
祖国に帰れば明日にも殺される可能性の高い人々に対し「帰ってよ」と嘲笑う職員の感性はあまりに情け無い。

映画に登場したラマザン君、オザン君は小中高校とすべて日本で学び育ってきた。本国に生活基盤も無いし、見知らぬ国と言う方が近いだろう。
そんな彼らが働く事も出来ない日本って一体なんなんだ。働けなければ食べる事は出来ない。仮放免も緩やかな処刑に等しい印象を受けるが、入管施設の非人道さに比べたら刑務所ですら天国に思える。
2019年、被収容者の容体急変に対して入管が救急車を追い返したのはラマザン君の叔父さんの事だったのだなぁ。
ウィシュマさんばかりではない。2007年からのわずか14年間でウィシュマさんは17人目の犠牲者だ。昨年10月にはインドネシア人男性、2014年のカメルーン人男性の映像は本作にも流されたがウィシュマさん同様、深刻な容体のまま放置されていた証左である。

「不法」=「犯罪」などという思考停止で、救える命を見殺しにするのは人間の行いではない。
声を出さない事、行動しない事は、虐めや殺人を傍観するに等しい。
まずは少しでも多くの日本人が「真実を知ること」から始めねばならないと思う。

pipi
Ysmir Skyrimさんのコメント
2021年12月25日

死にたくなきゃとっとと国に帰れよ。自分で帰国拒否してハンストして死んだけでしょ?ただの馬鹿な犯罪者でしょウィシュマは。

Ysmir Skyrim
NOBUさんのコメント
2021年10月14日

今晩は
 マタマタ、コメントを頂いていながら遅くなってスイマセン。
 私は、分かり易い中道左派的政治思想を持っています。学生時代、極左の先輩が多数いたもので”あのようになっては、駄目だ・・。”と思いつつ・・。
 エダモンには、頑張って欲しいのですが、仰る通り、人材がなあ・・。
 国民民主党と、立憲民主党の政策の違いが、イマイチ良く分からないNOBUでした。
 ケレド、国は一党独裁では”ゼッタイニイケナイ”腐敗はそこから始まるという想いは捨てきれません。では。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年10月11日

今晩は。
 コメントを頂いておりながら、遅くなってしまい申し訳ありません。
 今作は、先週末に起きた東京の地震に対しての会議の後、恒例の如く会社近くのミニシアターで鑑賞しました。名古屋出入国在留管理局で起きた事件(私は、あれは殺人事件だと思っています。)を受け、ミニシアターは今作を急遽上映してくれました。感謝です。
 感想はレビューに記したとおりですが、愛知県民である事に対する”恥”を改めて感じました。新聞記事(私は、ネットの情報は余り信用しません。新聞は2紙読んでおり(特に社説は重視))、この事件に対しては、切歯扼腕の思いを持っていました。
 今作は、あの事件が起こる前の事を映し出していましたが、あの管理局の時代錯誤も甚だしい、小役人仕事があの恥ずべき事件を引き起こした事が良く分かりました。
 けれど、あの事件はあのような思考を許容して来た行政機関を統べる党を選挙にて選んだ日本国民に責があるとも思っています。
 一党独裁の国に未来は無いと思います。「コレクティブ 国家の嘘」で描かれているように。
 立場的に立憲民主党は押しにくいですが、2党体制に近い政治構造に持って行く事が、現代日本では必要だと思っています。
 一点だけ。クルド人問題は余り日本では認識されていないので、そこにもう少しフォーカスすれば、更に複数の問題提起ドキュメンタリーになったかなとは思いました。では。

NOBU
pipiさんのコメント
2021年9月22日

レプリカントさん

人権途上国とは上手い!
まさに仰る通りですね。義理人情に厚いはずの日本人ですのに、法(異常な悪法だとしても!)や同調圧力には途端に思考停止するのも我が国の特徴だと思います。
声を出し、行動する事を心がけたいと改めて思います。

pipi
pipiさんのコメント
2021年9月17日

レプリカントさん

コメントありがとうございます。
ちくま新書の平野雄吾著「ルポ入管 ー 絶望の外国人収容施設」と、扶桑社、織田朝日著「ある日の入管」を購入しました。

本当に刑務所より酷い、まったく人権無視の非道な実態のようです。いつか何らかの形で、現状改善の運動に協力したいです。

pipi