劇場公開日 2021年8月20日

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「難しさはそれを受け入れられない大人の感情」うみべの女の子 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5難しさはそれを受け入れられない大人の感情

2024年5月6日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

この作品は、多義的なのだろうか?
どこにその難しさがあるのだろうか?
そう感じるのは、現代人という大人側の理屈で子供たちを規制しているからではないのか?
順番… 順番が違う… たとえそうであっても、結局彼らが行きつくのは我々と同じ場所だと思った。
この作品にも大人側の勝手な認識と決めつけに対する疑問が投げ掛けられているように思う。
多様化した社会構造によって引き裂かれる最初の部分が「子供の心」ではないのか?
そこで感じる純粋さに入り込んでいく孤独や私というアイデンティティを取り繕う仮面。
いつも表面だけで何事もないかのような学校や家庭や社会。
Sexなどへの興味と欲望だけがどうしても先に立ってしまう年頃に対する強制的規制。
それが「ダメなこと」として公言されることで社会悪となる。
サトウはイソベを好きじゃないけど、Sexに興味がある。中学生の誰もがそうなのだ。
イソベは自分を中二病だというが、兄への想いを払拭できずに悩み苦しんでいる。
やがてついに復讐する。自分の手で始末をつけたというイソベは、そこで大きく成長したのかもしれない。
同時刻、サトウは手紙を書く。初めて感じる切なさを言葉にした。彼女もまた自分自身の本心というものを初めて言葉にしてみたのだ。彼女の成長。
あの音楽は、誰もが経験する象徴だ。それを聞くとあのころの自分がよみがえってくる。
イソベの家庭環境も兄への思いも、一般的な家庭で育てば理解しにくい。
では、彼の環境とサトウとの仲に対するイソベの想いは関係あるのだろうか?
個人的に、それは関係ないように思う。
ころころ変わる考えとか、おそらくそれは意思を決定する部品がまだ揃わないだけだ。
少しずつ自分の考え方のもとになる部品が集められていく。
教育は、自分が正しいのではないかと思ったものを否定するシステムだ。
彼らはお互いの関係でそれを補い、抗らい、傷つき、傷つけあいながら学習していく。
甲子園という言葉は青春の象徴で、誰かの恋を垣間見るのも青春だ。
それを発見したサトウは「もっと、もっと大きな海」があることに気づいた。
中学時代に初めて本心をイソベにぶつけ、フラれ、泣いた日、今の彼、甲子園を目指すカシマ。成長はそんな経験の中にこそ生まれる。
今の彼とのデートにサトウは間違いなくリードを取っている。
この作品は、いつかそうだった等身大の自分。
でも多くは何もできないまま成長してしまう。「それがいい」とされている。
本心とは別の社会常識に傾倒してしまう。
子供も大人も同じ心を持っている。
規制された枠で膨れ上がる彼らのフラストレーション。時に爆発もする。その叫びは決して人をダメになどしない。そこにこそ成長点があるのだろう。
良い作品だと思う。

R41