劇場公開日 2021年8月27日

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「『ミッドナイト・ラン』のようなコミカルな珍道中から怒涛のクライマックスへと疾走する韓流スペクタクルパニックアクション」白頭山(ペクトゥサン)大噴火 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『ミッドナイト・ラン』のようなコミカルな珍道中から怒涛のクライマックスへと疾走する韓流スペクタクルパニックアクション

2021年8月29日
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鑑賞方法:映画館

韓国軍の爆発物処理班に所属するインチャン大尉は不発弾処理の現場から帰宅途中にソウル市街で大規模な地震に遭遇する。地震の原因は北朝鮮と中国の国境にある白頭山の噴火。政府の要請で急遽招集された地質学の権威、カン教授は約75時間後に大規模な噴火が起こり朝鮮半島の半分が壊滅的な被害を受けてしまうと試算する。この噴火を防ぐには北朝鮮が所有する核ミサイルから取り出した核燃料を白頭山地下で爆破して地中に蓄積されているエネルギーを分散させるしかない。ミサイルの所在を知っているのは北朝鮮人民武力部の元工作員で今は北朝鮮の収容所に囚われているジュンピョンのみ。除隊していたインチャンは身重の妻ともども米国に待避する条件で軍に復帰して作戦に参加するが、部隊が乗せた輸送機のエンジンが火山灰で故障、墜落してしまう。

という粗筋はせいぜい冒頭15分くらい。ソウルのビル倒壊シーンだけ切り取っても凄まじい迫力で、山崎貴辺りが撮るチャラい邦画アクションにありそうなクライマックスの何十倍もの熱量をツカミだけで使い切る製作陣の意気込みに鳥肌が立ちました。感心したのは北朝鮮に潜入して核燃料を奪って中国と北朝鮮の国境で爆発させるという21世紀の発想とは思えないムチャクチャな作戦にリアリティを持たせるための描写にしっかり尺を割いていること。地質学の権威のカン教授をマ・ドンソクが演じるというオーバースペックもすんなり馴染んでいます。そしてとにかく意外にも程があるのがこの作戦の描写がほぼほぼコメディだということ。作戦部隊がほぼほぼ壊滅してしまったために作戦指揮を執る羽目になってしまったインチャンを演じるハ・ジョンウと何を企んでいるか判らない元工作員ジュンピョンを演じるイ・ビョンホンが夥しいボケツッコミを繰り返しながら火山灰舞い散る北朝鮮の地を駆け抜ける中盤の軽快さにビックリ。出演作では鍛え上げられた肉体を惜しみなく晒すことが多いイ・ビョンホンが本作でも意外なところで臀部を露出していて思わず飲んでたコーヒーを噴きました。そんなバカバカしいやり取りの合間に挿入されるのは韓国軍の作戦を察知して暗躍する様々な影とジュンピョンの凄惨な過去。甘いカフェオレにドカンと食塩をブチ込んでかき混ぜるかのようなカオスな展開はずっしりと重い終幕に向けて疾走します。色んな要素をブチ込んでいるからかパニック映画の醍醐味であるモブシーンは控え目、バイオレンスも薄味ですがオーケストラを使った劇伴がしっかりとドラマに寄り添っているので一級品に仕上がっています。どこにも隙が見当たらない圧倒的なクオリティの作品を一部の外注を除きほとんど国内で仕上げている点も要注目、狭いマーケットで商売せざるを得ない昨今の邦画アクションとの決定的な力量差に呆然としますが、こっちの方が邦画アクションより狭いスクリーンでの興行となっていることに正直憤りを感じています。

よね