劇場公開日 2021年1月29日

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「もはや時代遅れなのだろうか」心の傷を癒すということ 劇場版 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0もはや時代遅れなのだろうか

2021年2月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 腰が痛くてペインクリニックに行くと、結構な混み具合である。世の中には身体に痛みを感じている人がこんなに沢山いるのだと少し驚いた。この経験から考えると、心療内科や精神科を受診する人も結構いるのではないかと思った。

 本作品は精神科医の人生の話である。精神科医の中には悪徳医師もいて、患者を長期間に亘って閉鎖病棟に強制入院させる事例が数多く報告されている。しかしもちろん大半の精神科医はまともな人間であり、恣意的に強制入院させることの出来る制度を悪用することはない。
 本作品では主人公の安医師を演じた柄本佑の演技がとにかく秀逸。コミュニケーションが上手くいくかどうかは言語による部分が15%で、残りの85%は非言語の部分だと言われている。精神科医に求められるのはこういう態度、話し方、声のトーン、表情なのだろうなと納得した。
 強制感がない、威圧的でない、急がせない、説教臭くない、落ち着いて穏やかな聞き取りやすい話し方である。こういう話し方は普通の人は相当訓練しないとできないと思うが、俳優柄本佑の演じる安医師はいとも簡単にお手本のような話し方をする。在日であることなどとうの昔に超越している。安は不安の安ではなく、安心の安なのだ。
 NHKは「国民の皆様のNHK」から「アベ様のNHK」に変わってしまってからは、基本的に見ないことにしている。しかし優秀なテレビマンはまだ残っていて、時々こういう優れた番組を作る。
 河島英五が謳った「時代おくれ」(1986年リリース、作詞:阿久悠)に次の一節がある。
「目立たぬように、はしゃがぬように、似合わぬことは無理をせず、人の心を見つめつづける、時代おくれの男になりたい」
 安医師のような人間は、もはや時代遅れなのだろうか。

耶馬英彦