劇場公開日 2021年7月17日

「茫漠とした荒野から見えるもう一つの「アメリカ」を独自の視点で描いた一作」ミークス・カットオフ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0茫漠とした荒野から見えるもう一つの「アメリカ」を独自の視点で描いた一作

2024年2月8日
PCから投稿

現代アメリカの諸相を描いてきたライカート監督による、西部開拓期の荒野を舞台にした一種の歴史物語とも表現できる作品です。ちょっと作風を変えてきたのかな、と思いながら鑑賞したところ、やはり本作もまた、「旅を通じてアメリカを描く」という明確な作品思想を宿した、紛れもないライカート監督作品でした。

茫漠たる荒野とその苛烈さに耐えながらのろのろと足を進める(実際かなりの部分自らの足で歩いている)、数組の家族の姿は痛々しくも美しさがあります。オーバーラップする画像に込めた仕掛けが新鮮な驚きを与える点もまた、この監督のなせる技です(特に作品冒頭のオーバーラップは見事です)。

描写の美しさ、構図の巧みさ以外に着目したいのが、旅人たちの使う道具が放つ尋常ではない生活感。今にも壊れそうに動く車輪、発砲までに大変な手数を要する銃など、ライカート監督は、彼ら彼女らがどのような環境でどのように生活しているのかを、執拗とも表現したくなるような丁寧さで描写していきます。劇中音楽や環境音など、音の使い方も地味に効果的。

物語の核となる、ミークス(ブルース・グリーンウッド)の、行き先が分かっているのか分からないのか判然としない案内人という、不安定かつ得体の知れない存在と、彼に不信感を抱きつつ荒野の生活では彼に頼らざるを得ない家族たちの対比が、「漂白」の浮遊感、不安定さに一層の切実さを加味しています。

余韻が残るというよりも「え、ここで終わる!?」と誰もが感じるであろう結末もまた、本作を忘れがたいものにしています。

yui